34 死を超越する者
「――いいだろう。貴様らは我が要望に従い、一定の成果を挙げた。褒美として我が力の一端を与えてやる」
そう厳かな顔つきで言うのは、もちろんトゥルボーさまである。
風と死を司る女神らしい威厳に溢れた立ち振る舞いなのだが、
「めがみさまいいにおーい♪」
「あったかーい♪」
両手にお子さまを抱えていることで見事に台無しである。
本当に子どもが好きなんだなぁ……、と俺が温かい視線を向けていると、
「何を笑っている? 殺すぞ」
――ぎろりっ。
「ひいっ!?」
めちゃくちゃ睨まれました……。
てか、口悪っ!?
オフィールの口の悪さは親譲りなのかもしれん……。
ともあれ、俺たちはトゥルボーさまからお力を賜った。
テラさまの時同様、スキルが変化するようなものではなかったのだが、
『スキル――《完全蘇生》:死した者を全快の状態で蘇生させる』
というように、まさかの蘇生スキルをいただいてしまったのである。
これには女子たちも大層驚いたようだった。
当然だろう。
確かに近いスキルで瀕死の状態から命を繋ぐ類のものはあるが、完全に死んだ状態からの蘇生など聞いたことがなかったからだ。
しかもすでに原形が留めておらずとも、死亡した時と同じ状態で再生出来るという。
まさに神の御業とも言うべき超レアスキルだったのだ。
まあテラさまのあれはあれで紛れもないレアスキルだったんだけど……。
「す、凄いです……。まさかこのようなスキルが存在していたとは……」
唖然とするマグメルに、トゥルボーさまは「当然だ」とやはりお子さまたちに両手を引かれながら言った。
「我は風と死を司る神。ゆえに死を与え、また死を排斥するなど造作も無いことだ」
「ありがとうございます! これでたとえ万が一のことがあったとしても、皆を守ることが出来ます!」
「うむ。貴様ならば力を正しく使うことが出来よう。だが決して力に溺れてはならぬ。大きな力にはそれだけ責任が――……」
と、重要なことを語る最中、トゥルボーさまが真顔で子どもたちに連れられていく。
すっかり新しいお母さんポジを獲得しているようだった。
でもなんかとってもシュールな絵面だった。
◇
ともあれ、これで地の女神に続き、風の女神の助力も得られたわけだ。
ヒノカミさまこと火の女神とも最初に会っているし、残すのは雷と水の二柱のみ。
雷は最後にした方がよさそうなので、次は水の女神――〝シヌス〟さまに会いに行こうと思っている。
そう思っていたのだが、
「――さあ、やろうぜ!」
何やらオフィールが聖斧を担ぎながら俺に声をかけてくる。
一体どうしたのかと瞳を瞬かせる俺に、彼女は不敵に笑って言った。
「確かにてめえらについて行くとは言ったが、まだてめえの女になるとは一言も言ってねえ。聞いたぜ? てめえに抱かれるとあたしらはさらに強くなれるんだってな」
おい、誰だそんなことを言ったやつは。
ちらり、と女子たちの方に半眼を向けると、目の合ったアルカが親指をぐっと立てていた。
いや、〝ぐっ〟じゃねえよ……。
はあ……、と嘆息しつつ、俺はオフィールに言う。
「てか、別に無理して俺の女になろうとしなくてもいいんだぞ? 普通にパーティーを組んでくれるだけで嬉しいし」
「はっ、これからあたしの男になろうってやつが何を腑抜けたことを言ってやがる。男だったら〝力尽くでものにしてやる!〟程度のことは言ってみせろってんだ」
「え、えぇ……」
俺別にものにしたい欲求とかとくにないんだけど……。
もう嫁さん二人もいるし。
だがオフィールにそれは関係なかったらしい。
「あたしはな、強い男が好きなんだ。だからてめえには会った時から興味があった。聖女を二人も従えてるなんて並大抵のやつじゃねえってな。そして今回の一件で確信した。あたしの男として相応しい男がもしこの世にいるのだとしたら、それは間違いなくてめえだとな」
びゅっ、と聖斧の刺先を俺に向け、オフィールは続ける。
「だからあたしと戦いな、イグザ。てめえが勝ったらあたしの全てをてめえにくれてやる。その代わり、てめえが負けた時は――」
「……っ」
ごくり、と俺が固唾を呑んでいると、オフィールはにいっと歯を見せて言った。
「――てめえは一生あたしの子分に決定だ。ついでにそこの二人もな」
「ほう?」
「な、何故私たちもなのですか!?」
当然、抗議の声を上げるマグメルに、オフィールは聖斧を肩に担ぎ直して言う。
「そりゃてめえらがこいつの嫁一、二号だからに決まってんだろ? 嫌なら嫁をやめてとっととどこへでも行きな」
「や、やめません! 私はイグザさまを生涯お慕いすると心に誓ったのですから!」
「右に同じだ。というわけで――イグザ」
「うん?」
アルカに呼ばれ、俺が小首を傾げていると、彼女は再び親指を立ててこう告げた。
「愛する正妻と妾からのお達しだ。この際妾がもう一人増えても構わん。――全力でやれ」
「……はは、了解だ」
愛する嫁たちにそう言われてしまったのならば仕方あるまい。
久々に――全力でやらせてもらうとしよう。
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