《聖女パーティー》エルマ視点11:なんなのよこのお腹は!?


 ――ぽよんっぽよんっぽよんっぽよんっ。



「あ、あの、聖女さま?」



「はい、なんでしょうか?」



「い、いえ、その、なにゆえ私のお腹をたぷたぷされているのでしょうか……?」



「ふふ、それはもちろん大事なお仲間であるあなたの健康チェックのためです」



「ああ、なるほど!」



 それで合点がいったのか、豚がぽんっと両手を叩く。


 が、もちろんそんなはずはない。


 これは単に何か気を紛らわせられるものはないかと探した末の苦肉の策だ。


 大体、この腹で健康なはずないでしょ!?


 どう考えたって太りすぎよ!?


 あーもう見てるだけでイライラする!?



 ――ぽよぽよぽよぽよぽよぽよっ。



 豚のお腹をぽよぽよする速度を上げながら、あたしは苛立ちを募らせる。


 それもこれも、全ては馬鹿イグザのせいだ。


 フィオの話を聞き終え、宿へと戻ってきたあたしだったが、頭の中はやっぱりあいつのことでいっぱいだった。


 フィオの話を聞けば聞くほどに、あり得ないとは思いつつも、馬鹿イグザの顔ばかりが頭に浮かんでくるのである。


 だがどう考えても馬鹿イグザが真イグザに昇格出来る要素が見当たらない。


《身代わり》のスキルでどうやって聖女を倒せるまでに成長したかが、どれだけ考えてもまったく分からなかったのだ。


 ゆえに、心底不本意ではあったものの、あたしはほかの人……もとい豚の意見も聞いてみることにした。



「ところで、たとえばのお話なのですが、ある日突然元々あったスキルとはまったく別のスキルが使えるようになることがあるとは思いますか?」



「ふむ、それは派生スキルとは別の形でということですか?」



「ええ、まったく関係のないスキルです」



 ちなみに、〝派生スキル〟とはごく希にスキルが近しい類のものに派生した別スキルのことで、《高速詠唱》のほかに《多重詠唱》が出来るようになるとか、そういうものである。



「どうでしょうなぁ。私の知る限りそのような事例があったことはないのですが、しかしこの世界には創まりの女神さまやヒノカミさまのように、私たちの常識が通じない方々がいらっしゃいます。なので、もしかしたら何かの弾みにそういうことが起きるかもしれません」



「なるほど。確かにあなたの仰るとおりかもしれませんね」



 あたしはそう慈愛の雰囲気を全開に微笑みかける。


 何よ、お腹たぷたぷの豚男にしてはまともなことを言うじゃない。


 ちょっとだけ見直したから人間に昇格させてあげてもいいわ。


 光栄に思うことね、豚。



 ――ぽよんっぽよんっぽよんっぽよんっ。



 ともあれ、もしかしたらその可能性もあるってわけね。


 出来れば完全に否定して欲しかったのだけれど仕方ないわ。


 こうなったら真イグザに直接会って、馬鹿イグザの存在を完全に否定してやるんだから!


 そう勢い込み、あたしは豚のお腹をしばらくの間ぽよぽよし続けていたのだった。

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