《聖女パーティー》エルマ視点3:ドラゴンスレイヤーどこ行ったのよ!?


 港町ハーゲイのギルドでドラゴンスレイヤーが火山島マグリドにいると聞いたあたしたちは、早速船で南へと向かった。


 マグリドは温泉地としても有名な場所らしいので、ドラゴンスレイヤーとパーティーを組んだ暁には、この溜まりに溜まったストレスをゆっくり解消しよう――そう思っていた。


 思ってはいたのだが、



「……ドラゴンスレイヤー? 誰ですそれ?」



 いや、なんで急に消息不明になってるのよ!?


 まさかの展開に、あたしは頭を抱えていた。


 え、おかしくない?


 航路が直接繋がっている町の英雄的存在がわざわざ出向いてきたのよ?


 普通は町を挙げてお迎えしたりするんじゃないの?


 それがお迎えどころか、その存在すら知らないなんて……。


 え、マジで意味分かんないんですけど!?



「おや、どうされました? 顔色が優れないようですが……ふぃ~」



「いえ、大丈夫です……」



 そりゃ優れなくもなるわよ……。


 これじゃあたしのリフレッシュ計画が水の泡じゃない……。


 てか、あんたのその尋常じゃない汗はなんなのよ!?


 あたしの荷物にあんたの汚い汗が染み込んだらどうしてくれるわけ!?


 あ~もうイライラする~っ!?


 内心頭を掻きむしりたい気持ちのあたしだったが、そんなはしたない振る舞いを聖女がするわけにはいかない。



「……ふう」



 ゆえに、あたしは深く呼吸をし、なんとか冷静を装う。


 こんな時あの馬鹿イグザがいたなら、いいストレスの捌け口になったのに、何故肝心な時にいないのか。


 本当に使えないやつ……っ、とあたしは唇を噛み締める。


 ただ不幸中の幸いか、気になる噂も聞いた。


 この島に古くから伝わる守り神――〝ヒノカミさま〟が復活したというのだ。


 実際に島民たちがその雄々しき姿を目の当たりにしているといい、しかもあのアダマンティアすら一人で退けたのだとか。


 なので先日まで町は連日宴を行うなど、お祭りムードに包まれていたという。


 恐らくはその影響でドラゴンスレイヤーの存在が掠れてしまったのだろう。


 さすがは伝説の守り神である。


 これは是が非でも会うしかあるまい。


 何故ならあたしは聖女。


 かの聖剣に選ばれた唯一の女なのだから。


 ならば当然、なんか凄い力を与えてくれるに違いない。


 そう考えたあたしは、一旦ドラゴンスレイヤーのことは忘れ、荷物持ちの男性に告げた。



「では入殿の許可をもらいに町長さまのところへ参りましょうか」



 が。



「も、申し訳ありません……。さすがにこの暑さで動くのはもう……はふぅ~」



「……」



 こ、この豚男ぉ~……っ。


 全力でビンタしてやりたい気持ちを必死に堪え、あたしは人知れず拳を握り続けていたのだった。

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