10 唯一無二のスキル派生体質


 俺たち人間はこの世に生まれ落ちた際、女神さまによってスキルを与えられる。


 それは人生を左右する才能のようなもので、基本的には一人一つだ。


 だが希にスキルを複数持つ者がいるという。


 もちろん女神さまは誰に対しても分け隔てない存在ゆえ、彼女が与えたものではない。


 その人が何かの弾みでスキルを〝派生〟させたのだ。


 たとえばそう――俺のように。



「いつの間にか随分増えたなぁ」



 ステータスのスキル欄を見やり、俺はそう独りごちる。


 そこには最初に持っていた《身代わり》を筆頭に、まるで木の枝のようにスキルが線で結ばれていた。


 以前までは《不死鳥》のスキルのみが表示されていたのだが、新たにスキルを会得したことで、スキル欄自体の表示も変わったらしい。


 恐らくは最初からそうなるよう女神さまがお作りになられていたのだろう。


 さすがは〝創まりの女神〟と言われているお方である。


 まあ誰もその存在を見た者はいないらしいんだけど。


 ともあれ、問題は俺の会得した新しいスキルである。


 それは《身代わり》《不死身》《不死鳥》の変化とは別に《身代わり》から伸びたもので、《体現》と、そこから伸びる線には《疑似剣聖》の文字も記載されていた。


 詳細な説明はこんな感じだ。



『スキル――《体現》:過去に蓄積したダメージからスキルを模倣する』



『スキル――《疑似剣聖》:全ての剣技を高レベルでマスターすることが出来る』



 だから俺はエルマの習得した剣技を扱うことが出来たのだろう。


 回復はしてもらえるとはいえ、幼い頃からずっと痛みに耐え続けてきた俺の努力が実を結んだのかもしれないな。


 あんまり思い出したくはないけど、すげえ辛かったからな……。


 と、いかんいかん。


 せっかく自由の身になったのだから、もっと楽しいことを考えないと。


 しかし楽しいことか……、と俺は再びスキル欄を見やる。


《不死鳥》は別としても、普通はこんなにスキルが派生するはずないのだが、もしかして俺は何か特異体質なのだろうか。


 だとしたらこの《体現》も、今は俺自身の体験からスキルを模倣してはいるけれど、もしかしたらそのうち他人のダメージを読み取ってスキルを模倣することが出来るようになるかもしれない。


 つまり剣以外の武器を扱うことが出来るようになる可能性があるのだ。


 まあ所詮は可能性の話であるが、そう考えていたら夢がある気がする。


 徒手空拳を含め、全ての戦闘術を即座に切り替えて戦うことが出来る不死身の冒険者――。



「やべえ、めちゃくちゃカッコいいぞ……」



「――ラフラ武器店の冒険者さま、そろそろお時間です」



「あ、はい」



 俺は自分の中に眠る無限の可能性に、一人胸を躍らせながら闘技場へと向かったのだった。



      ◇



 そうして迎えた二回戦。


 俺の相手は双剣の属性武器を扱う男性だった。


 しかも火属性の俺とは相性の悪い水属性の武器だ。



「一回戦は見事でした。ですが残念でしたね。私の双剣は水属性。火属性のあなたに勝ち目はありません」



「それはどうかな? やってみないと分からないだろ?」



「いいえ、あなたの敗北はすでに決定しています! 大人しく負けを認めなさい! ――メイルシュトローム!」



 どんっ! と地を蹴り、男性が流水を身に纏いながら攻撃を仕掛けてくる。


 確かに属性には相性がある。


 水が火に強いのは道理だし、よほど力の差がない限り勝ち目が薄いのも事実だ。


 だが。



「双剣には――双剣だッ!」



 ――ごごうっ!



「なっ!? この火力は!?」



 俺が十字に放った炎の斬撃は、やつの纏う流水を瞬く間に蒸発させた。



「ぐうっ!? この程度で!?」



 男性は必死に炎を受け止めているが――遅い。



「――はっ!?」



 俺は男性の背後へと一瞬にして回り込み、片刃の長剣に戻した魔刃剣ヒノカグヅチを低く構える。



「悪いな。俺の炎は特別製だ」



 ――ざんっ!



「がはっ!?」



 炎刃一閃――男性が両手から双剣を落として倒れ込む。


 峰打ち程度に加減はしたが、手応えは十分である。


 しばらくは起き上がって来られないだろう。



「それとな」



 すでに気を失っている男性に、それでも俺は言った。



「俺の剣術もまた特別製だ。なんたって聖女さま由来だからな」



      ◇



「お疲れさまでした、イグザさん!」



「うん。ありがとう、フィオちゃん」



 観客席に戻ってきた俺に、フィオちゃんが満面の笑みで労いの言葉をかけてくれる。


 もうこの笑顔を見られただけでも頑張った甲斐がある気がする。


 ティアちゃんの時も思ったが、やっぱり妹っていいなぁ……。


 まあ妹ではないんだけど。



「お疲れさん。無事で何よりだよ」



「いえいえ、これもレイアさんの打ってくれた武器のおかげです」



 俺がそう笑いかけると、レイアさんは俺の腰元に目線を落として言った。



「――魔刃剣ヒノカグヅチ。こんなめちゃくちゃな武器をあれだけ使いこなすなんて、あんたやっぱり大した男だよ」



「あはは、ありがとうございます。絶対優勝するって約束しましたからね」



「そうだね。あたしもあんたならやり遂げてくれるって信じてる。ただ……」



「?」



 ふとレイアさんが真剣な表情で闘技場の中心に視線を移す。


 そこにいたのは、目にも留まらぬ速さでモーニングスターを振り回している男性と、紫の槍を優雅に構える女性だった。



 ――聖女アルカディア。



《神槍》のスキルを持つ聖女の一人だと、俺は後に知ることになるのだった。

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