4 スキルがさらに進化した!
「ほ、本当にありがとうございましたっ」
ぺこり、と小さな頭を下げてくるのは、お母さんに温泉旅行をプレゼントしてあげた少女――ティアちゃんだった。
あれから麓町に戻る道すがら、町の自警団に遭遇した俺は、懇切丁寧に事情を説明した。
すると町長からめちゃくちゃ感謝されてしまい、ここでの滞在費を全て持ってもらえることになったのである。
そんなこんなで温泉をがっつり堪能した俺は、同じく親子揃って旅行を楽しみ、本日帰路へと就く予定のティアちゃんたちに、改めてお礼を言われていたのだ。
「あはは、別に気にしなくていいよ。それよりこれからもお母さんを大切にね」
「はい、もちろんです! だってわたし、お母さんが大好きですから!」
にんまりと満面の笑みを見せてくれるティアちゃんに、俺の顔も思わず綻ぶ。
俺は一人っ子なわけだが、もし妹がいたらきっとこんな感じなんだろうな。
「ティアちゃんは本当に優しくていい子だな」
「あっ……えへへ♪」
俺が微笑みながら頭を撫でてあげると、ティアちゃんは恥ずかしそうに顔を赤くしていた。
「じゃあ気をつけてね」
「はい、ありがとうございましたっ。……あ、あの!」
「うん?」
最中、ティアちゃんが何やら思い詰めたような顔で俺を見上げてくる。
どうしたのかと俺が小首を傾げていると、ティアちゃんは胸元でぐっと両手を握り、こう尋ねてきた。
「ま、またお会い出来ますか……?」
もちろん俺は大きく頷いて言った。
「うん! 俺もまたティアちゃんに会えるのを楽しみにしているよ!」
「わあ♪ あ、ありがとうございます!」
爛々と瞳を輝かせ、ティアちゃんが勢いよく頭を下げてくる。
そんな純真無垢な彼女の姿に、俺はやはり顔から微笑みが消えなかったのだった。
◇
ティアちゃんたち親子と別れた後、俺は再び山道を登っていた。
というのも、先日アダマンティアと戦った際、己の力不足を痛感したからである。
あの時は偶然が重なってなんとかなったからよかったようなものの、毎回あのような奇跡が起こるとは限らない。
いや、むしろ起こらない方が自然なのだ。
なので、何か少しでも修練が出来る場所がないかと町長に尋ねたところ、火山の途中にある神殿を紹介されたのである。
なんでもそこではサブスキルの《火耐性》が得られるといい、よく冒険者たちがそれ目当てに訪れているという。
ちなみに、〝サブスキル〟というのは、メインのスキルほどではないにしろ、自身の能力として確立される技能のことで、たとえば《火耐性》を得ると、文字通り火や熱に強くなれるのである。
ただサブスキルのランクはE~Aの5段階あるため、初期の〝E〟は習得しやすいものの、効力はそこまで高くはない。
「でもまあないよりはマシだからな。せっかくだし、一応習得だけはしておこう」
そう独りごち、山道を登っていた俺の目の前に、やがて神殿の入り口が見えてくる。
どうやら洞窟状になっているようだ。
「イグザさまですね。町長よりお話は伺っております」
「あ、どうも」
入り口にいた巫女装束の女性に連れられ、俺は神殿の中へと入っていく。
そこは火山の内部へと通ずる道のようで、次第に周囲の景色にオレンジ色が増えていった。
進めば進むほど熱気も格段と増し続け、ついにはどろりと流れる溶岩の姿すら見え始めるようになってくる。
「こちらです」
「は、はい……」
正直、暑すぎてすでに帰りたい思いだったが、ここまで来てそれはさすがに恰好が悪い。
というか、巫女さんが普通に涼しい顔をしているので、男の子としては意地でも我慢せねばならなかったのである。
まあ恐らく巫女さんは《火耐性》持ちだろうけど、それはそれだ。
「あそこの祭壇で瞑想を行うと、《火耐性》を得られる可能性があると言われております」
「わ、分かりました……」
頭がぼーっとしながらも、俺は巫女さんの言う祭壇へと上がっていく。
祭壇は火口に飛び出すような形で、一歩間違えば火口に真っ逆さまな造りになっていた。
「よ~し、瞑想するぞ~……」
――つるっ。
「「あっ……」」
そして早速――一歩間違えました……。
「ちょっ!? お、おわあああああああああああああああっ!?」
「い、イグザさまああああああああああああああっ!?」
巫女さんの慌てる声を背に、俺は火口へと真っ逆さましてしまったのだった。
◇
不思議と、熱くはなかった。
むしろどこか気持ちのよささえ感じられるまどろみの中、俺はゆっくりと目を覚ます。
すると。
『――よもや人の子が生きて我が前に現れようとはな』
誰かの、声が聞こえた。
男とも女ともとれる不思議な声音だ。
『よかろう。その勇気と研鑽に敬意を表し、我が力の一端をそなたに与えよう』
その瞬間、俺の中で何かが変化したのが分かった。
この感覚は、《身代わり》のスキルが《不死身》へと変わった時と同じだ。
そして何故かは分からない。
けれど、俺の中に一つの確信が生まれていた。
――今なら飛べる、と。
『ゆくがよい、人の子よ。我が灼熱の翼を以て、世界の果てまで翔てみせよ』
「!」
――どぱんっ!
刹那、俺はカッと両目を見開き、真紅の炎を纏う一羽の鳥となって溶岩の中から飛び出す。
「――なっ!?」
そして再び祭壇の上へ降り立つと、恐らくは泣いていたであろう目の腫れた巫女さんが、驚きの表情で固まっている姿が見えた。
そう、何が起こってそうなったのかはほとんど思い出せないのだが、俺のスキルがまたさらに進化したらしい。
『スキル――《不死鳥》:大いなる火の御使いとなって、死を含め、受けた傷を瞬時に回復し、火属性攻撃を無効化する』
つまりはめちゃくちゃ凄い《火耐性》を習得したということだろう。
よく分からんがとにかくよかった。
それより大分心配をかけてしまったみたいだし、とりあえず巫女さんに生存報告をしなければ。
「すみません、今戻りました」
「え、あっ……」
だが巫女さんは事態が飲み込めていないのか、未だに唖然としていた。
まあこの状況だし、仕方あるまい。
なので、俺は彼女を安心させるべく、なるべく優しい声音で言った。
「俺はこのとおり大丈夫ですから、どうぞ安心してください」
「あ、い、いえ……」
――ちらっ。
「ほら、どこも怪我していないでしょう? ですから大丈夫です」
「あ、そ、そうではなくてですね……」
――ちらっ、ちらっ。
「?」
何やら歯切れの悪い巫女さんだったが、やがて彼女はどこか恥ずかしそうに頬を染めて言った。
「あ、あの、出来ればお召し物を着ていただけると……」
「お召し物……? って、うおおっ!?」
ちょ、俺全裸じゃねえか!?
いや、それ先に言ってね!?
慌てて下腹部を両手で隠しつつ、俺は先ほどから巫女さんがちらちら何を見ていたのかを、その時になってはじめて知るのだった。
てか、なんで何回も見てたの!?
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