《聖女パーティー》エルマ視点1:絶対に許さない!
イグザが去って数日後のこと。
「なんなのよ!? なんなのよ!? なんなのよ!?」
がんっ! がんっ! がんっ! と木に何度も蹴りを入れ、あたしは憤りを露わにしていた。
「あたしは聖女なのよ!? なのに! あたしの! お守りは! 限界! ですって!? ただの腰巾着のくせに! どの口で! ほざいてるのよ!」
ふざけんなっ! と最後に思いきり怒りをぶつける。
「はあ、はあ……」
それで少しだけ気の晴れたあたしは、肩で息をし、呼吸を整える。
イグザがいなくなったせいで荷物も運べなくなったあたしは、あれから一人で隣町のギルドまで赴き、即席の荷物持ちを雇った。
何故聖女のあたしがわざわざそんなことをしなければならないのかと心底腹が立ったが、雇わなければ旅は続けられない。
だから本当に仕方なく雇った。
が、問題はそこからだった。
荷物の管理は全てイグザに任せっきりだったので、何がどこにあるかがまったく分からなかったのである。
まさか聖女であるあたしが何も答えられないなんて、そんなみっともない真似が出来るはずがない。
あたしは皆の憧れる聖女。
可憐で、優雅で、理知的でなければならないのだ。
だからあたしは荷物の中身を一から全部調べた。
そしたらどうだ。
今度は出した荷物が入らないではないか。
もうイライラして堪らない。
けれど、それをぶつける相手もいない。
おかげであたしはここ数日ずっとこのように暇を見つけては人目を憚り、何かに怒りをぶつけていた。
「イグザのくせに……っ」
ぎりっと唇を噛み締める。
あたしがいないと何も出来ない無能のくせに。
あたしのおかげで今までいい思いが出来たくせに。
なのにその恩を仇で返すなんて絶対に許せない!
必ず見つけ出して謝らせてやる!
泣いて土下座させてやる!
そのためにはあたしがどれほど偉大で、仕えていたことが光栄だったかを分からせてやるしかあるまい。
「――あ、こちらにいらっしゃったのですね。急にいなくなられたから心配しましたよ」
「ええ、ごめんなさい。この辺りで魔物の気配がしたものですから」
にこり、とあたしは聖女らしく慈愛に満ちた微笑みで荷物持ちの男性に笑いかける。
「そうでしたか。さすがは聖女さまです」
当然のことだが、男性はあたしの美貌に見惚れているようだった。
「いえ、皆さまのお力になれることが何よりの喜びですから」
「聖女さま……」
再度微笑み、あたしは決意を固める。
とにかく凄いパーティーを作り、イグザにあたしとの格の違いを見せつけてやるのだと。
そしてあたしのもとからいなくなったことを後悔させてやるのだと。
ゆえに、あたしは言った。
「では予定通り参りましょう。――ドラゴンスレイヤーさまのもとへと」
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