第5話 ハンター
入学式の翌日早朝。
「ふぁ~……朝か……」
僕は学院の寮で朝を迎えていた。昨日の騒動の後、僕はソフィア会長の妹で主席合格のフィーネ・コレットと教室に向かいこれからの学院生活の説明を受けた。講義の内容は主に算術や歴史などの基礎学力、魔法そして実技である。どれも師匠と暮らした際に勉強した為、特に気に留める内容ではなかった。僕はとにかく講義中に寝ないように必死だった。その時、隣でフィーネがこちらを見ながら笑っていたが僕はそれどころではなかったので必死に頑張りながらも長い1日を終えた。
「今日はハンター協会に行かなくちゃな~」
今日はハンター協会に行く予定なのだ。なぜなら生活費は自分で稼ぐために!!師匠からは仕送りをすると言われたのだが僕はそれを断った。自分の食扶持は自分で稼ぐと決めていたからだ。
「準備してさっそく行くか!!」
アレンは朝食を終え、いつもとは違う格好に着替える。それは、全体が黒色で所々に銀色の線や装飾があり、フードを被る。そして、顔にも仮面を取り付け、腰には刀を下げた。その姿は強者の風格を漂わせている。
「よし!!準備完了!!最後に……限定解除……」
アレンは自身に術式を展開させる。その術式は足元から頭にかけて駆け上がり最後には上空へ消えていく。それと同時にアレンの姿は黒髪黒目から銀髪銀目に戻るのであった。しかし、仮面とフードによって銀髪銀目は上手く見えないようになっている。
限定解除した姿はそう兵器と呼ばれていた本当のアレンの姿であった。アレンは師匠との力の制御の修行として素性を隠しながらハンターとして活動していた。アレンの潜在能力の高さもあり、1年ほどでアレンはハンターランクのSになっていた。Sランクはこのブリング大陸において僅か20人しかいない大陸での上位の実力者となっている。
ハンターとは住民からの害獣や魔獣の盗伐、調査、護衛、採取といった依頼をこなす生業であり、それぞれ実力に見合ったランクが付けられている。ランクはS、A、B、C、D、Eと6段階ありSランクはハンターの頂点と言われている。また、ハンターを統括しているハンター協会はオルレラン共和国に本部があり、大陸全土に支部を設けている。そのため、ハンターの実力は大陸に置いての力量を意味している。
アレンはSランクハンターとして王都のハンター支部に向かい扉を開けた。中は酒場のように円卓が数多くあり、名のあるハンター達が円卓を囲み、酒を飲みながら騒いでいる。その中を僕は受付に向かうと、周囲の人々は次々に視線を僕の方に向けてきた。
……やっぱりこの格好はハンターとはいえ目立つよね……あはは……
僕は自分でも呆れながら受付に向かった。
「いらっしゃいませー!どういった御用でしょうか?」
支部の受付嬢は笑顔でこちらに尋ねてきた。
……最近金欠だからな……ここらへんで稼ごう…
「Sランクの依頼をいくつか見繕ってくれ!!」
「えっ……。あの~Sランクの依頼はSランクハンターのみが受けられるんですけど……」
アレンと受付嬢の会話を聞いていた周囲のハンター達はあざ笑っていた。
「あっははは~!!」
「バカだろあいつ!!」
「やべぇ!!こんなに笑ったのは久しぶりだぜ~」
「身の程の知らねぇーヤロウだ!!」
「おいおい!!坊っちゃんや~そんなあぶねぇーハンター業をせず、早く帰ってママのおっぱいでもしゃぶってな~」
「「あっははは!!」」
「仮面被っちゃいるけど実は嬢ちゃんなんじゃねぇ~か~」
そういって室内がやじと笑いに包まれている中、筋肉質でガタイの良い坊主のハンターが笑いながら近づいてきた。
「おいっ!!坊主!見栄を張るのはよしな!!新人ならEランクからやるのが道理だぜ!!」
「んっ……あんた誰だ?」
「おいおい!!俺をしらねぇのか?俺はこの支部で唯一のAランクハンターのギルスだ!!」
「お前など知らん!!Aランクが俺の前を遮るな。」
アレンの態度のデカさに周りが「やりやがったこいつ……」みたいな反応で周囲は二人に注目していた。アレンも自分の放った言葉に内心焦っていた。
……やってしまった……怒ってる?……怒っているよね?……
僕は仮面の下で恐る恐るギルスの顔を見ると彼は額に青筋を張らせ、目尻を吊り上げこちらをにらんでいた。
…あー…ごめんなさいごめんなさい……この姿でしゃべるとついつい語気が強くなるんだよー……
そう。アレンはハンター姿に変わると性格というよりも、態度が変わるのだった。きっかけは師匠との修行していた時に遡る。
当時、僕は自分の力を抑え、制御する為に師匠からハンター業をすることを勧められた。しかし、力を制御するとならば力を抑えた姿より元の銀髪銀眼の姿で制御しなければならない。すると、この姿は目立つ上にいずれ正体がばれてしまうという懸念から外套と仮面で隠すことにした。
「アレン君、容姿は外套と仮面でわからないけど……まだ足りなわ!!」
「……足りない?……何が足りないのですか師匠?…」
師匠は顎に手を当てながら「んー」と呟きながらこちらを値踏みするかのように見つめていた。そして、閃いたような表情でこちらに指を指して言ってきた。
「そう!!言葉使いよ!!」
「えっー!!」
「アレン君の言葉使いは他のハンターに舐められてしまうわ!!なので、言葉遣いを変えましょう!!」
アレンは呆れながら言う。
「はぁ~必要ありますかそれ??」
「大ありです。」
師匠は笑顔で僕の言葉遣いに注意しながら修行に入っていた。僕は頭の片隅で思う。
……師匠…何か楽しんでる気がするような……しないような……
この一件以来、アレンはハンター姿になった際、態度が変わるのであった。
時は元に戻り、ギルスは激怒しながら話してくる。
「貴様、人が親切に助言してやれば、何だその態度は!! ああん??表に出やがれ、格の違いってやつを見せてやらぁー!!」
「あんたに時間を割くほど暇じゃないんだよ!!」(いえ止めておきます。急いでいるので!!)
「何だと!!おらぁ!!」
ギルスは腕にある腕輪型の魔道具を使って素早く術式を展開し、拳に炎を纏わせながら殴り掛かってきた。
「死にやがれー!!」
……あーあ…またやっちまったよー……
「ドォーン」と爆発したような爆音と白い煙が支部内の視界を奪った。そして、一瞬で視界が回復すると、
殴り掛かったギルスと周囲の人々は驚きの表情をしていた。
ギルスは「うっ……」と声が漏れて、自分の拳が凍り付いている状況に驚愕した。
「室内で炎の魔法を使うなどありえん!!火事でも起こったらどうする!?」
アレンはギルスが炎の拳を人差し指で抑えながら凍らせたのだった。
…危ないな…でもこの人、術式展開が早かったな…さすがAランクといったところか……
ギルスは凍った腕をもう一つの腕で支えながら話してくる。
「き…貴様…何者だ!?」
「あんたに名乗る名などない!!」(特に名乗るものではないですよ…)
二人のやり取りに間に口を挟む女性の声が聞こえた。
「何の騒ぎた!?支部内での戦闘は御法度だぞ!!」
受付の奥の階段から支部長である紫色の髪を後ろで一つ纏めた気の強そうな女性が下りてきた。そこにさっきの受付嬢がロウサ支部長に事の成り行きについて耳打ちしていた。
「…というわけなんです支部長。」
「事の成り行きは理解した!!」
支部長は受付嬢の話を聞いた後にこちらに顔を向けてきた。
「んっ!!…お前…なぜここに居るんだ?」
「支部長この方をご存じなんですか?」
「ああ!!3か月前の本部で会って以来か?」
「そうだな。ロウサ・リンジャ―殿!!邪魔してる。」
「うちの支部での問題は起こさないでくれよ!!クロード!!」
ロウサ支部長がクロードという名を出すと周囲の人々が再度驚愕の顔をしている。
「おい!!今支部長クロードって言ったよな?」
「ああ!言ってた!!」
「確かに言ってたわ!!」
「ってことは!?もしかしてSランクハンターの!?」
「「クロード・シルヴィスっっっ!!!!」」
周囲の人々は謎の人物の正体がSランクハンターと分かって驚きに満ち溢れていた。そして、支部長の隣にいた受付嬢アンナが支部長に確認していた。
「ロウサ支部長!!本当にあのクロード・シルヴィスですか?」
「ああっ!!確認しなかったのか?」
「確認する前に騒動に発展しまして……」
「まったく!!!」
「お前たちは確認もせず突っ走りやがって!!お前もだぞ!!ギルス!!」
「面目ねぇー」
ロウサ支部長は全員を宥めるのだった。そして、クロードに要件を聞いていた。
「それでクロード話は戻るがなぜここに居るんだ!?」
「もちろん依頼を受けに来た!!」
「そういうことではない!!お前はランティア支部所属だろ!?」
「しばらく王都にいる予定だ!!これから世話になる!!」
突拍子のない言葉にロウサ支部長はため息を吐きながら答える。
「はぁ~。お前それはランティアの支部長の許可は貰っているんだろうな?」
「なんだ?許可がいるのか?」(許可なんているの?そんなの聞いてないよ?)
「Sランクの所在地は把握せねばならないからな!Aランク以下はいらないが…お前もしかして…」
「もしかしなくてもその通りだ!!許可など貰ってない」(師匠!!聞いてないよ……)
「はぁ~。お前って奴は…まぁ~いいこちらで手続きしとくよ。」
「よろしく頼む。」(ふぅ~いい人でよかった!!!)
「それでSランクの任務だったな!?残念ながらこの王都周辺のSランクの依頼はないぞ!!」
「なに!!?」(えー無いの~?)
「それはそうだろう!?王都だぞ周囲は軍どもが守っている!!あってもAランクが数件ぐらいだ!!」
「そうか…だからここのハンターの平均ランクが低いのか……」(Aランクが1人は少ないもんな…)
「まぁな!!そういうことだ!!」
「何か報酬のいい依頼はないか?金がいる!!」
「Sランクのお前が金を要るとはな…博打で掏られたか?」
ロウサ支部長はこちらにニヤリとした表情で訪ねてくるが、僕は無関心で表情で言葉を返す。
「そんなわけないだろう。それで依頼はあるのか?」
「ああ。ちょうどいい案件がある。奥で話そう!!」
アレンはロウサ支部長の案内で支部長室に向かうのであった。
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