第3話 魔術学院入学①

 冬を超え、日差しが温かくなり、春を迎えたこの王都では将来、魔導師を目指そうとする若者がここフィオーレ王国の王都アティリアにある魔術学院を入学するのである。


 僕もその内の一人で、明日この魔術学院に入学するのである。魔術学院では全寮制で僕は4日前に師匠にお世話になった家を出発し、3日間の馬車での道のりを終え、王都に着き、これから過ごす男子寮に師匠と向かっていた。


 「王都は、すごいな~!! 人も見たことない物も沢山だ!!」

 「ふふっ…アレン君、よそ見していると危ないですよ」

 「すみません師匠。見るものすべてが初めてなのがたくさんでついついよそ見しちゃいました。」

 「これから、王都に住むのですからこれからが楽しみですね」

 「はい!!」


 僕と師匠は王都中央付近にある魔法学院に到着した。そして、師匠と共に学院の学院長室に向かうことになり、師匠の近くを歩きながら、学院長室の前に着いた。師匠は軽く扉をノックして中から女性の声が返ってきた。


 「どうぞ!」

 「入りますよ!!」

 「久しぶりね!!マリン1年ぶりかしら??」


 学院長室にいたのは、赤髪の隻眼で髪を肩付近の長さで整えており、学院の教員制服を身に包んでおり、一見隙のないしっかりとしたお姉さんである。


 「そうね…前回のあったのは帝国の侵攻時に王都で会った以来になるわね…」

 「あの時は十二支魔導師の全員が驚いていたんだぞ!!急に1人で前線に行くなんてあなたらしくなかったから…」

 「まぁまぁ…あなたが私を心配してくれるなんて珍しいわね…」


 師匠は嬉しそうに学院長の話をしていた。


 「それで、その子が手紙で言っていた少年だな?」

 「そうよ!!これからアレン君をよろしくね!!」

 「アレン・フォレストです。これからよろしくお願い致します。」

 「私がこの学院長をしている。エルモア・ディスタートだ!!よろしくな!!」


 僕は学院長に挨拶を交わした後、師匠と学院長は二人で話があるらしく、僕は学院を見学することにした。


 「さて、マリン!正直に話してもらうぞ!!」

 「エルなにをです?」

 「惚けなくていい。手紙にはあのアレンは親戚の子供と記してあったが、違うのだろう?」

 「……やはり…エルは感がいいですねー!! では、アレン君が何者なのかエルはわかりますか?」

 「1年前、帝国との戦場でマリンが帝国の凄腕の魔術師と戦ったのは報告書で知っている。そして、その報告書にマリンは始末したと記していた。しかし、実際は生きているのだろう?報告書に記された容姿とは違うが、さっきのアレン少年が帝国の魔導師なんじゃないか?」


 エルモア・フォレストは私と幼馴染で私と同様に十二支魔導士に選ばれる秀才。やはり、彼女には隠しきれませんか……


 「さすがエルですね!!その通りです。アレン君はあの時の魔導師ですよ!!」

 「どういうつもりだ。帝国の魔導師を引き取り育てるなんて正気の沙汰とは思えないぞ!!」


 学院長は呆れたような表情で彼女にため息を吐きながら会話を続ける。


 「仮に少年が帝国の魔導師ましてはあの戦役で現れた魔導士と知ったら、国は黙っていないぞ…。そして、マリン!!あなたも十二支魔法師の称号剥奪だけでは済まなくなるかもしれないのよ!!」

 「それならそれでも構わないわ!!その時、エルは知らなかったと通して貰えばいいわ…」

 「ねぇーマリンどうして危険を冒してまで彼の面倒を見ているの?」


 私はエルにすべてを話した。アレン君が現在帝国領になっている小国ライドで生み出された魔導兵器であるということ。そして、彼の体は外見ではわからないが成長速度が速いため、体が限界を迎え、あと5年ほどしか生きられないということを……


 「そういうことなのね……でも、あなたがそこまであの子に肩入れするはなぜ?……」

 「魔導士とは罪な生き物とは思わない?魔導士はそれぞれに魔法を極めることに必死、中には魔法が使えない人を蔑み、ましては人間じゃないように扱う者いる。」


 エルは真剣にマリンの話を聞いてくれた。それはこの世界に置いて皆が思っているが、それを表立って唱える者はいない。魔法が使える魔術師は称えられ、魔導具によって使える者は当たり前、そして魔導具を使っても魔法が使えない者は蔑まれる。これがこの世界に浸透している闇であり、現実である。


 「アレン君は、私たち魔導士の犠牲者なのよ……人はどうであれ、親から愛情を注がれながら生まれ育つ。でも彼は違うの。誰にも愛情は注がれず家畜のように扱われてきた。私はそれが許せなかった。だから、私は決めたの……残り少ない余生を幸せになってほしいと……だから私は彼にとびっきりの愛情を注いであげるの…いつか最後を迎えたと時に笑顔でいられるようにね……」


 マリンは最後には目頭に涙を溜めながら、アレンのことを思い私に話してくれた。

  ここまであなたが思っているなんて……


 「彼は知っているの?この先長く生きられないこと?」

 「話してはいないわ…告げるのは酷だと思っていたから。でも…あの子は聡いから気づいているのかもしれないわね…」

 「そうなのね…わかった!!あの子は私がこの学院で面倒を見るわ!!あなたの覚悟も思いも知ったことだしね!!それに親友の頼みは断れないしね!!


 エルは最後には笑顔でウインクしながら答えてくれた。


 「エル…ありがとう……」


 一方、アレンは春休みで生徒のいない学院内を見て回っていた。周囲は閑散としており、僅かに冷たい風が頬を掠めながら、周囲の桜の花びらが舞い上がり、ゆっくりと地面へと落ちていく風景を目を閉じながら肌で感じていた。そんな後ろから誰かがぶつかり前のめりに倒れそうになったが持ちこたえた。


 「おっと…危ない……」

 「あっ!!ごめんなさい!!急いでいるの!!」


学院の制服を着たセミショートの青髪の少女は見た感じは活発で陽気な雰囲気を纏っており、アレンの傍を走って通り過ぎた。


 「危なかったな…誰もいないのであんなに急がなくてもいいのに…」


 アレンが通り過ぎた少女を見送っていると、後ろからマリンの声が聞こえた。


 「アレン君!!ここに居たのね!!

 「師匠!!学院長との話は終わったのですか?」

 「ええ!!終わりましたよー。アレン君はどうでしたか学院を探検してみて?」

 「とても大きなところですねー。全部は見れなかったですがこれからが楽しみになってきました。」

 「それは良かったです。それじゃ寮で荷下ろしをしましょうか。」

 「はい!!」


 マリンとアレンは寮に向かい荷下ろしをした後、王都で夕食を取り、マリンは王都にいる期間滞在する宿に戻り、アレンも寮に戻って寝台の上で学院生活心を躍らせていた。


  明日から学院生活が始まるのか~楽しみだな~!!


 先ほどアレンとぶつかった青髪のセミショートの少女は黒髪黒目の少年とぶつかった後、脇目に彼を見ながら少し違和感を感じつつ生徒会室に向かっていた。


 「……さっきの子、誰だろう……? 何か不思議な感じがする……。あっ!!急がなきゃお姉ちゃん怒られる。」


 少女は息を切らしながらノックもせずに生徒会室の扉を開けた。


 「こらっ!! フィー!!入る時はノックをしなさい常識でしょ!!あと、遅刻よ!!」

 「ごめん!!お姉ちゃん!!道端に倒れているおばあちゃんが……」


 少女が遅れた理由を話そうとすると、それを遮るように少女と同じ青髪碧目で髪は腰まで流しており、吊り目の碧目の女性が話す。


 「嘘おっしゃい!!」

 「えへへへ…」

 「ソフィア会長こちらの方が明日新入生代表する妹さんですか?」


 生徒会の役員であろう緑色の髪で眼鏡をかけた一人が会長に話しかける。


 「そうです。挨拶がまだでしたね!!妹のフィーネです。さぁー!フィー皆に挨拶を…」

 「はい!!フィーネ・コレットです。よろしくお願いします!!」

 「こちらこそよろしくお願い致します。副会長のヘンリー・グレイと申します。」

 「それでフィー!!明日の代表挨拶の準備は出来ているの?」

 「もちろんだよ。ちゃんと出来ているよ!!それよりお姉ちゃん!さっきここに来る途中で黒髪黒目の人見かけたんだけど学院の人?」

 「あー確か学院長の推薦で入試なしで入る新入生よ!!たしか名前はア…ア…」

 「アレン・フォレストですよ会長!おばあちゃんじゃないんですからしっかりしてください。」

 「何よ!!ほんの少し忘れてだけでしょう!?もうっ!!」


 ソフィアの覚えの悪さに副会長のヘンリーは呆れたように返事をしていた。そこでフィーネが先ほどを違和感を感じていたことを質問していた。


 「黒髪黒目って珍しいね!!異国の人なのかな??それに、入試免除で入学って異例だよね!?お姉ちゃん何か知ってるの?」

 「特に何も知らされてないわ。唯一教えて貰ったのはフォレスト卿のご子息ということだけかしら…」

 「えっ!!そうなの!?フォレスト卿って十二支魔導士のマリン・フォレスト卿の…?」

 「あっ!しまった!!これ機密事項だった……」

 「はぁ~会長に秘密ごとは難しそうですね~」

 「とにかく!!フィーこれは他言無用よ!!わかったわね!!」

 「わかった!内緒にする!!」


 ヘンリーを含む生徒会のメンバーは会長のおっちょこちょいな態度に呆れながら温かいまなざしで見守っていた。

 

  ふふっ…これからの学院生活は楽しくなりそうだな~


 フィーネは驚きの事実を聞いて、身近な人にその話をしてしまうのであった。そして、1日も立たずそれは全校生徒に広がった。フィーネはそのことは知らずに翌日の入学式にむかうのであった。

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