第2話 旅たち

 時は流れ、が誕生してから5年が経過したフィオーレ王国のとある田舎の町ウリアに黒髪黒目の少年がいた年齢は5歳だが見た目は15歳ほどである為、師匠以外の人には15歳で通している。


  「師匠…掃除、洗濯、薪割り終わりましたよー」

  「はーい!!ご苦労様。それでは食事にしましょう。」


 碧眼茶髪を腰まで流し、20代前半の女性で、街を歩けば注目を浴びる美しい女性が食卓に料理を並べていた。


  「そろそろ荷造りの準備は終わったの?アレン君」

  「完璧ですよ。もう、師匠は心配性ですね」

  「来週からは王都の魔法学院に行くのだから、忘れ物がないようにね。」

  「分かっていますとも!でも、師匠僕はこれからやって行けるでしょうか。」

  「ふふっ!!心配はいりませんよ。学院長は私の旧友ですし、何かあれば頼りなさい。」


 僕は1年前、こちらの師匠その名をマリン・フォレストの元でお世話になっている。


 そして、来週から王都にある魔法学院に通うことになった。


  「でも、この1年で力を抑える事も出来るようにはなりましたけど…いつ、暴走するかが不安です。」

  「大丈夫ですよ。1年前にあなたを拾ってから、私の知識をすべて叩き込みましたし、それに、いざと言うときは私があなたを止めます。」

  「ありがとうございます。師匠」


 この少年、黒髪黒目の少年アレンは1年前の王国と帝国の戦争で師匠であるマリン・フォレストと出会った。


 帝国は当時、西の小国の魔法が盛んなライドを吸収し、膨大な戦力を手に入れてフィオーレ王国に侵攻した。その戦場で王国の中で魔法の頂点ともいわれ賞賛される十二支魔法師の一人マリン・フォレストに戦場で出会った。十二支魔導師は誰しもが目指す称号でもある。

 僕が師匠と出会ったのは、僕が帝国のとして、師匠は王国の十二支魔導師として戦場で命の奪い合いをした。それは今でも鮮明に覚えている。そこで僕は救われた。


=マリン・フォレスト=


 私は1年前、帝国が王国に侵攻の際、王命により十二支魔導師として戦場の最前線に赴いていた。そこは言葉に表せないほどに酷い状況であった。帝国軍の戦力は5万の兵力に対し、我々王国は資源の豊富さもあり、兵力は10万、秤量も十分にあり撃退は容易だと誰しもがその考えだった。無論、私も同じ考えだった。


 しかし、戦場はある一人の少年により、壊滅の危機にあった。


  「将軍あれはなんですか?」

  「わからん!!先日までは我々が優勢だったが、きょう未明からあの者が現れ、戦況が不利になりつつある」

  「フォレスト様、あれは本当に人間なのですか?あれほどの大規模な魔法を次々に展開できるなどありえません……」


 その少年の容姿は白銀の髪に鬼仮面の姿をしており、彼の戦場の周りはまるで冰の世界のように王国兵が氷漬けになり、彼が右手に持つ方刃で反りがある剣、おそらく刀が横に一閃に払うとその氷漬けになった者は砕け、散りとなって消えていく。


 私はふとある国の噂を思い出した。それは、今は亡きある小国ライド国の研究の噂である。魔法兵器を作るという噂である。しかし、それは魔石や術式を使った兵器であると推測していた……


  「まさか、とは人間なのか………」


 私は、ふと口に出してしまった。それに気づいた将軍はこちらに目を見開いていた。


  「フォレスト様、もしやあれがあのライドで生み出されたとでも

いうのですか?」

  「いや、わかりません。しかし、それが本当ならこれではまずいですね……私が奴の相手をしますので、周囲に近づかないようにお願いします。」

  「畏まりました。伝令!!至急、奴の周囲に近づかないように全軍に徹底せよ!!」 

  「了解しました。」

  「では、将軍…後ほどお会いしましょう。」

  「ご武運を…」


 私は、風属性の魔法で即座に白銀の髪に鬼仮面をした少年の目の前に立った。そこでは私は驚いた。まだ年端も行かないような幼い体系であったが、鬼のような仮面のせいか纏っている雰囲気が殺気にみち溢れていた。


  これほどの魔力にその殺気……あなたは生まれてこの数年でどれほど酷な時間を過ごしたの…いや……今はそんなことを考えている場合じゃないすね……本気で戦わねば私が命を落とす……


 戦場の真ん中では現在、十二支魔導士の一人と銀髪鬼仮面の少年がそれぞれ高度な魔法をぶつけ合い、地形が変わるような攻防が繰り広げられている。


 私の魔法は四属性を基本に光属性をメインに使う。そして固有魔法として私が作り上げた術式解体がある。


 この術式解体があれば時間のかかる大規模魔法など、術式完了の前に解体し無効にできる。しかし、目の前の少年にそれが効かない。いや使えないのだ!!


  「少年!! 君は術式展開なしでどうやって魔法を発動しているのですか?」

  「…………」


 私は、彼の魔法を交わし、かつ攻撃の魔法を混ぜながら少年に質問した。


しかし、彼は答える気はないといった顔で次々に高度な複合属性の冰属性の魔法を巧みに操り、刀による近接戦闘をしながら、私のレイピアとぶつかり火花を散らしていた。


 長時間にわたる戦いで、私たちは戦場の全線をはなれ、誰もいない森の奥で相対していた。


   ……そろそろ、私の魔力が心配ですね……彼も平然としていますが、もう限界でしょう……


  「少年…終わりにしましょう……」

  「んっ?…… くっ……」


 少年は相変わらず無口で肩で息をしながら、こちらを見据えている。


 私も息を切らしながら、術式を右腕から右手に流れるように流していき右手に集まるように展開し、光魔法を発動させる。


  「終わりです。裁きの聖十字グランド・クロス

  「なっ!!……ちっ…」


 少年は私の魔法を防ごうと、魔力を練っていたが、時すでに遅く上空から光の塊の円柱が少年を押しつぶし、少年が繰り出そうとする魔法は消滅し、魔力をも刈り取った。この光属性の魔法も十二支魔導師になった力でもあった。


  「ふぅー、やっと終わりましたか……今回ばかりは私も命の危機を感じましたね…」


 少年は意識があるようだが、体が動かないような様子であった。そこに彼女は近づき拘束し鬼仮面を外した。


 そして、初めてその少年の銀髪銀目の顔を見た。その時、彼女は少年の言葉を初めて聞いた。それは年相応の幼い声だった。


  「……殺して……ください…」


 少年はもう魔力もなく、立ち上がる力すらない傷だらけの様子で彼女に言葉を発した。彼女はその言葉を聞き、戸惑った。


   …こんなに幼い子が……として弄ばれ…そして私の手でこの子の人生の幕を閉じなければならないのか……


 さらに少年は最後の力を振り絞るかのように彼女に言葉を発する。


  「…ありがとう…僕を止めてくれて…僕は…として生まれた……戦場に…出れば僕は…僕自身を止められない……」


 少年は涙を流しながら何度も口から吐き出し、必死に言葉を彼女に紡いだ。


  「もう…戦いたくない…みんな死んでしまった……だから…もう最後にしてほしい……。」


 彼女は少年の言葉を聞き、迷ってしまった。


  どうすればいい……。この少年の願いを叶えるべきか……


 彼女は決断し少年に悲しげな表情で告げた。


  「……わかった」


 少年は彼女の言葉を聞き、安堵した表情で彼女に「ありがとう……お姉さん……」と最後に言葉を告げ、眠るように目を閉じ意識を手放した。


 彼女は少年の胸に手を置き残りの魔力を使って魔法を使った。全身に術式を展開し、光魔法である高難度魔法を少年に施す。


  「……魂魄回帰ソウルリバース…」


 少年の体が光に包まれ、全身にある傷がみるみる消えていくのであった。そして彼女は決意をしたような表情で傷が癒えた少年を背負い、彼女の故郷に帰るのであった。


  …この子はまだ死んではいけない!! …この世界の広さも美しさも儚さも知らないまま死ぬなんて私は認めません!!……


―アレン・ フォレスト―


 とある田舎町の一軒家の寝室で少年は眠っていた。


  んっ……なんだろう……まぶしい…

  鳥の声が聞こえる……俺は…生きている?……


 少年は意識を取り戻し、瞼を少しずつ開き、周囲を見渡した。


  …ここはどこだろう?…体が思う通りに動かない……


 「おはようございます。目が覚めましたか?」


 少年に話かけてきたのは碧眼茶髪を腰まで流し、20代前半の女性だった。少年は一目でこの女性が先日、命の奪い合いをした相手だと分かった。そして、彼女はゆったりとした雰囲気で話はじめた。

 

 「自己紹介がまだでしたね。私はマリン・フォレストといいます。一応この王国で魔導士です。あなたの名前を教えて頂けませんか?」

 「僕は…503号…」

 「それがあなたの名前ですか?」

 「うん…僕は…503番目に完成された兵器だから503号……」


 マリンは彼の名前を聞き、として作られた人間などだと改めて実感したのだった。


 「その名前は言いにくいので別の名前にしましょう……そうですね……アレンっていうのはいかがですか?」

 「……アレン……」

 「はい‼ あなたにピッタリだと思います !!」


僕は、なんだか知らぬ間に瞳から涙を流していた。


 「なぜ…僕を…生かすのですか?」

 「なぜって、あなたはまだ十分に生きていないわ。この世界の広さも、美しさも、儚さも…この世に生まれたからには知るべきと私は思いました。だから、私はあなたを何が何でも生かして見せます。」


 そういって彼女は僕が落ち着くまで傍に寄り添っていた。

 そして、僕は生まれてからのこれまでの過去を彼女に話した。彼女の症状は悲しそうな症状で僕の話を最後まで聞いてくれたのだった。


 「これまで大変でしたね。私がこんなことを言うのは可笑しいのかもしれません。ですが……我々、魔導士があなたを作りこれまで戦わせてしまい申し訳ありません……」

 「でも、これからはアレン君が思うがままに生きて下さい。この広い世界で思う存分生きて下さい。」

 「僕にそんな資格があるでしょうか。僕は生まれてから今まで戦場で多くの人を殺めてしまいました。こんな僕に……」

 「そんなことはありません。それはあなたの罪でありません。それは私たち魔導士の大人の責任です。なので、今度はあなたがこの世界で最後まで精一杯生きて下さい。」


 その後の僕は彼女のことを師匠と呼び、魔術の勉強と世間一般の礼儀作法を覚えるのであった。

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