第18話 栞は絶望する

 何故こんなことになってしまったのか。確かに帰ってきてから一度もカメラのデータを確認はしなかった。しかし、図書館ではカメラが正常に回っていることをこまめに確認していたのだ。なのに、どうして……。


 本当に図書館の意志によるものなのだろうか。例え、それが本当だとして何故こんな報いを受けなければならない。親子二世代で生涯をかけて研究しているというのに。私は負のループに嵌まった思考の中、何故と自問しながらソファの上で眠ってしまった。

 

 目が覚めると翌日だった。研究職に就いている者はよくこうして自身の研究室で寝ることが多々あったため、何ら問題はなかった。


 しかし、ひと眠りしたことで気分が少し入れ替わり斎藤教授の言っていた通り、あきらめてはならないなと考え直し、自分に気合を入れた。取り敢えずラウンジに行きコーヒーの一杯でも飲もう。


 そう思い、廊下へと出ると丁度話し声が聞こえた。朝ということもあって、研究棟の人はまばらだったため、その会話は近くに行かずともよく聞こえた。


「それで、昨日はどうだったんだい斎藤さん」


「どうもこうもないさ。証拠の動画を撮ってきたというから見てみたら、画面は真っ暗で声だけだよ」


「あれ、ま。データが飛んだのかい」


「本人はそう言ってるがね」


「じゃあ、なんだい、違うのかい」


「ありゃ、多分偽装だろう。大方何もなかったからデータ欠損という形にしたに違いない」


「そうなのか」


「そうさ。流石に親父さんの研究を引き継いだのはいいものの三十になったって何もわかりませんでしたじゃ大変じゃないか」


「それもそうだな。それで、どんな対応したんだい」


「勿論慰めてやったさ」


「いけないじいさんだねえ。はっはっはっはっはっ」


 二人の教授はそう笑いながら廊下を進み消えていった。


 信じられない。あんなに親身になって励ましてくれた斎藤教授がそんな風に思っていたなんて。今度こそ私は膝から崩れ落ちた。私はいつの間に孤独だったのだろうか。

 

 信頼していたと思っていたのは私だけの一方通行だったなんて。先ほどまでの活力を失った私は力なく自信の研究所へと戻った。

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