第8話 猫はどうやらお茶目なよう

 んにゃ~などと鳴くからやはり猫ではないかと疑ったのも束の間その口から、フェイへの不満が漏れ出てくる様を誰が予想できたであろうか。しかも口ぶりからして女性の様だ。


「はじめまして~。あら、やっぱり喋る動物には驚くのね。今回は創作物の中には喋るものもあるのに。不思議~」


 しかも、この猫ノリが若い子並みに高い。大学院に入りずっと研究してきたアラサーには辛いものがある。


「私の名前はアフロディーテよ~、よろしく」


 なんと、喋るお猫様の名前は愛と美の女神らしい。そりゃこんな美しい毛並みを持ってれば納得……ってなるか。


「アイ、また適当に名乗って……。あなたはいくつ名前を持つ気ですか」


「え、アイちゃんって言うんですか」


 アフロディーテから一転、可愛らしい名前に納得とともに、この子はいたずら好きなようだ。


「もう、フェイって遊び心が無いわよねえ。そんなんじゃどんどんジジ臭くなってくわよお。それから、栞ちゃん! 私はあなたよりも年上なんだから“アイちゃん”なんて気安く呼ばないで頂戴。私の名前はアーウィよ。アーウィ様と呼んで」


 突然の高飛車な態度に、猫の女王様然とした気ままさは持ち合わせているようだ。


「待って、どうして私の名前を知っているの」


「あら、フェイが言っていたでしょう。私が此処を管理しているの。あなたの入館を許可したのも私よ? どこの誰か知っていて当然でしょう」


 何を当たり前なことを問うているのかという顔で私を見つめ返す。先ほどまでの可愛さは鳴りを潜め、瞳には怪しげな光が宿り彼女を妖艶なものとしていた。少し変わったペットのようにアイのことを見ていたが、彼女は私が思っているほど単純ではないようだ。


「こらこら、アイ。あまり客人を脅かしてはいけませんよ。それにあなたが招いたくせに、まるで彼女が偶然此処に来たような口ぶりなのはいただけませんね」


「私を此処に招いた? どういうことなの」


「それを話すには、まずこの図書館について理解してもらわなくちゃいけないわ。フェイ説明してあげて」


「おや、面倒くさいところはすべて私任せですか」


「口答えしないの」


「ええ、分かりました」


 どうやら此処から本題のようだった。衝撃的なことが多すぎて忘れていたが此処は海底神殿内なのであり、人が住めるような場所ではないはずだ。そこに住む異国人然としたフェイシュと名乗る男性に、この世には存在しないような容貌と人の言葉を話す不思議な生物。


 すっかり忘れていた回しっぱなしのカメラにフェイシュが映っていることを横目で確認してから、彼の図書館の説明とやらを聞くことにした。

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