プロローグー2 山崎
「聞いていいのか知らんが、ザキはさ、なんで彼女と別れたんだ」
「理由はよくわかんないです・・・・。ただ、『あなたは私なんていないほうが幸せになれる』ってそう言われて振られました」
美術部の部室でだべっていると、先輩のモリさんにそんなことを聞かれた。僕は本当に久しぶりに高校時代の彼女のことを思いだした。
僕、
今にして思えば、自分みたいな根暗な奴を好きになってくれる女の子がいたのが奇跡みたいな話だと思う。
モリさんは、僕の返答にお・・・おう、と若干困惑したような顔をしている。まあ、仕方ないかな。あんまりおもしろい話じゃないから、僕も未だに理由をよくわかっていないし。
そんな話をしていると、廊下から女子の声が響いてくる、聴き慣れた声と知らない声。
「え?さやさん、彼氏さんと結局仲直りできたんですか?」
「うん、まあ、いちおーね?」
「会うの二回目なのにもう仲いいね、加納さん・・・」
声につられてモリさんと二人で部室の入り口を見ると、美術部の先輩のさやさんと最近入った後輩のみはさん。あと知らない女子がドアを開けた向こうから入ってきた。
「おっす。おつかれ、みはちゃん、さや・・・・あと、誰だ?」
モリさんも最後の1人に見覚えがないのか、首を傾げている。そんな僕らにみはさんこと、川瀬みはるさんが意気揚々と返事した。
「先輩方おっつかれさまでーす!あ、こっちは私の友達の加納さんで、なんか話してたら面白そうだから先輩たちを見たいって」
「ははは、川瀬さん。その言い方はあれだね・・・」
紹介された加納さんはすこし困惑したように、テンションの高いみはさんをなだめた。
「おう、そーか、まあごゆっくり。・・・・俺らは珍獣か何かか?」
「はて、私的にはあながち間違ってないですよ?」
みはさんは何かおかしなこと言いました?と言うふうに首を傾げる、その様に思わず僕とさやさんは軽く吹き出した。
「おう、先輩への敬意ってものを知れ新入生」
「まあ・・・・モリさんは珍獣ですかね」
楽しそうだったので、僕も茶々を入れることにした。
「おめーにだけは言われたくねーよ、珍獣筆頭」
隣をチラリと見ると呆れた視線が帰ってきた、僕ってそんなにひどいかなあ。
そんな僕らを放っておいて、さやさんはいそいそと美術室の中に入ってくる。
「あんたらは元気だねえ。いやあしかし、4月だってのに寒いわ」
「ですね・・・温かいコーヒーか何か淹れましょうか?」
僕が聞くとさやさんは手をこすりながら、すこしホッとしたよう表情でこちらを向いた。
「ありがとうー、助かるー。ミルクだけでいいわ」
「みはさんと・・・・加納さんは?」
ついでなので下回生二人にも聞いてみる。
「いえい、欲しいです!」
「あ、じゃあせっかくなので頂きたいです」
テンションの高い、みはさんと大人しめの加納さん、なんとも凸凹コンビだ。
「わかった。ミルクと砂糖は?」
「いっぱい欲しいです!カフェオレくらいのやつ!」
「あ、私は普通くらいのミルクだけで」
注文を承って、席を立つ。部室のわきに置いてあるポッドで、インスタントコーヒーと砂糖と粉末乳を適当に配分して淹れる。さやさんの加減は大体わかるけれど、みはさんともう一人の子はの舌の好みをまだ把握していない。ちょっと淹れすぎかなと思ったけれど、そのまま出すことにした。
「ありがとー・・・いやあ、相変わらず、配分完璧だわ」
「・・・うっまあ、インスタントですよね?これ」
「そっか・・・・そんくらいの配分がいいんだね」
「へへ、ですです」
「あったかーい・・・」
三者三様の反応を見せる女子三人がコーヒーを飲んでいる。それを眺めながら過ごしていたら、モリさんがふと呟いた。
「しっかし、なんでそんなこと言ったんだろうなあ・・・」
ん?と思ったけれど、さっきの彼女話がモリさんの中ではまだ続いていたみたいだ。そういえばこの人は結構、思考が長引く人だった。
しかしこのタイミングでその呟きは。
「ん?何の話?面白い話?」
案の定、さやさんが食いついてくる。モリさんはちょっと困ったようにこっちを向く。言っていいのか?みたいな意味だろう。僕は無言で首を縦に振った。別に隠すようなことでもない、面白いかは保証しかねるが。
「ザキの高校時代の彼女の話な」
「お、私も聞きたいな、その話。なれそめとか」
「え、私も聞きたいです。どんなかんじだったんですか彼女さん?」
「えー、ロマンスの香りがします。私もぜひ」
女子三人がそれぞれカップを持ってずずい、と前のめりになる。僕とモリさんは思わず若干、腰がひけた。
「こういう話、好きだな女子は・・・」
「・・・面白いかはわかりませんよ?」
「「「大丈夫」です」」
三人ともいい笑顔で頷く。はは、と苦笑いをして、仕方ないので出会いからかいつまんで話すことにした。
一年半、そう一年半だ。向こうも僕のことなんて、すっかり忘れてきっと、大学生活を満喫しているころ合いだろう。
同じ大学にいるらしいが、顔を突き合わせたことはほとんどない。きっと、もう交わることのない道だろう。
「ええと、出会いは彼女が彫刻刀を持って、自分を刺そうとしたのを止めたとこから始まるんですけど・・・」
「え、激やばじゃん」
「ほわー」
「すでにえもい香りが・・・・」
三人の目が好奇に光る。
まあ、この話も、そろそろ笑い話になる頃合いだろう。
今の自分の居場所を自覚しながら、昔の彼女との思い出を紐解いていった。話をしながら、笑う。
笑っていられる。うん、大丈夫だ。今の僕はなにより、この場所でいるのが楽しいのだから。
話は盛り上がってしまって、話終わる頃には日が暮れていた。
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「はあ、・・・・無理。尊い・・・・」
「・・・・加納さん?」
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