第7章 解放

                 第7章 解放


 3人はイロの門にたどり着いた。イロの門の前には衛兵が2人立っていた。物陰から門の方を伺っているとドンが言った。

「なぁ、どうすんだよ」

 レムルスはバックからドライアイスのイロを取り出して言った。

「実はドライアイスは密閉した状態で溶けると爆発するんだ。少し前に瓶に入れておいたから、もうそろそろ爆発すると思う。それをイロトリの排出口に入れれば爆発して、しばらくイロトリは動かなくなる。だから2人は衛兵達を何とかして引き付けて欲しいんだ。いけそう?」

 ロメルスとドンはうなずいた。

 そして、レムルスは2人を見て「じゃ、お願い」と言って、その場を離れて行った。レムルスが離れるとロメルスが言った。

「“あれ”やる?」

 するとドンが渋い顔になりながら言った。

「あぁ……“あれ”ね……」

 “あれ”とは、昔2人が編み出した遊びである。その遊びとは“悪口ゲーム”と言ってルールはシンプル。互いの胸を掴みながら、大声でどれだけ悪口を尽きることなく言えるかを競うという遊びである。ただこの遊びは周りから喧嘩と見られてしまい、禁止にした遊びである。

 すると、ロメルスは、言った。

「ただ、俺の顔は見られるとまずいからフードを被ってやるよ」

 そしてドンは、「やるかぁ」と言いながらロメルスの胸を掴むと、

「このクソが!? ぶっ殺すぞ!」

 と怒鳴った。



 一方、レムルスは他の場所で待機していると、ドンの声で「このクソが!? ぶっ殺すぞ」と聞こえてきた。すると、衛兵達が声がした方に反応すると1人が言った。

「何だぁ? 喧嘩かぁ?」

 もう1人がめんどくさそうに言った。

「お前、一応見てこいよ」

 すると、段々と互いの声が激化していき、レムルスの声で「うわぁー、やめろー」と聞こえてきた。衛兵達はビクッと体を震わせると、

「やばい、喧嘩どころじゃないぞ!?」

 そう言うと衛兵達は声のする方に走って行った。

 そして、レムルスはイロの門の中に入った。門の中は四隅に灯台が設置しており、真ん中にはイロトリがあった。大きさは人の腰あたりで、左側にイロを排出する筒が1つ付いていた。レムルスはその筒に既に瓶を入れると、その場から立ち去った。

 レムルスが外に出ると、ロメルスとドンが立っていた。

 ロメルスはニカっと笑うと言った。

「今、あいつらは在りもしない事件を探して、うろうろしてると思うぜ」

 レムルスはホッとした顔になると言った。

「よかった、2人ともありがとう。もうそろそろ爆発すると思うし早速、イロナシに行こうか」

 そして、3人は公園の方に向かって行く途中、ドンがレムルスに聞いた。

「なぁイロナシの人たちを助けた後、逃走経路と食料はどうするんだよ?」

「大丈夫、最初ここに来たときにいろんな店から長持ちする食料を買い占めて逃走経路の途中に隠しておいたから。」

 下水道の中を歩いている時、ドンが信じられないと言う様に言った。

「お前ら、こんなところ歩いてたのかよ」

 ロメルスはニヤリと笑うとドンに向かって言った。

「イロナシはこんなもんじゃないけどな」

 3人がイロナシに着くとイロナシの人々は、皆ボーッとした様に立っていた。

 それを見たロメルスが言った。

「よし、イロナシの破壊は成功したんだな」

 すると、レムルスが真ん中の円に立って、大声でいった。

「皆さん、聞いてください。今までこの国では皆さんの感情を吸って、それをこの国のエネルギー源にしていました。しかし、今は感情を吸う機械も止まっています。今のうちに私たちと逃げましょう!」

 しばらく誰も何も言わなかった。しかし、1人がポツリと言った。

「俺はここから出たい。感情は俺たちのものなんだ」

 その1人に続く様に他の人々も「ここから出たい」と言い出した。そして、ロメルス達はイロナシの人々を連れて暗闇に行った。イロナシの人々は暗闇を怯えながらも抜け出し、下水道を歩いていると前からトラン王が衛兵を連れて歩いてきた。

ロメルス達は若干後ろに下がるとトラン王が言った。

「イロナシが壊されたと聞いた時はまさか! と思ったがお前が引導していたとはな。誰にそそのかされたのだ?」

 トラン王はレムルスの方を顎を向けるとレムルスが言った。

「違います、私が自分で考えました」

 トラン王は少し驚いた顔をすると、レムルスに怒鳴った。

「なに、お前が考えたのか。では、なぜそんなことをした!?」

 トラン王が起こっているのに対しレムルスは落ち着いて言った。

「人々の感情を吸うなど倫理に反しています」

 しかしトラン王は聞く耳を持たない様に言った。

「レムルス、儂もお前の歳のころにこの事について悩んだことがある。しかし、儂らは王族の人間なのだ。ガイル国の民を守らなければいけない義務がある。もし、ここでお前が彼らを連れて行ってしまうとこの国の人間はどうなる。それにここから連れ出した後どうするつもりだ? 放浪生活でもするのか? 例え、他の国に保護してもらおうとしても、無理だろう。なぜなら、お前は国に反旗を翻した者だ。それを受け入れるということは、その国は我が国と対立するという意志があるということを示すことになる。それでもお前はここから彼らを連れて行こうとするのか?」

 レムルスは言葉が詰まった様になにも言えなくなった。さらにトラン王が何か言おうとするとロメルスの声が響いた。

「なぁ、なんでレムルス1人だけみたいに言ってんだ?」

 トラン王はギョッとした顔で言った。

「何だ! お前は恐ろしいぐらい顔をがそっくりだな。もしかして、レムルスにイロナシのことを言われてヒーロー気取りでいるのか? やめときなさい、まだ子供だろう。こんなにもたくさんの人を引っ張って行くなんて無理だよ。今すぐ家に帰りなさい」

 しかし、ロメルスは全く動じる事なくトラン王に言った。

「確かにな。俺1人でこの人数を引っ張るのは無理かもしれないけどレムルスと一緒だったら、大丈夫だよ」

 トラン王は、怪訝な表情でロメルスに言った。

「なぜ、そう言い切れるのだ」

「だって、親友だから」

 するとトラン王は愕然とした顔になりロメルスを見ているとドンがレムルスの肩に触れながら言った。

「俺も最初はこいつの事はうさんくさかったけ今ではロメルスと同じくらい信頼してるよ」

 しかし、トラン王は怒りに顔を歪めると言った。

「馬鹿らしい。既に多くの国が私等と同じな様にイロを作っている。つまりお前達がイロを否定するということは、世界の大半を否定するということにもなる。それでも、ここから出たいというか?!」

 レムルスは少し驚いた顔になるが、ハッキリと言った。

「はい、他の犠牲になっている人たちも助けます。そして、この世界から、イロを無くしてみます」

 トラン王は目を見張ると何かを思い出す様な顔で言った。

「……いいだろう。しかし、ここには2度と戻ってくるな! 道を開けなさい!」

 すると、衛兵達がロメルス道達の為に道を開けた。ロメルス達は衛兵達の間を通ってその場を離れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る