第5章 イロナシ
第5章 イロナシ
しばらく互いに黙りながら歩いていると、ロメルスがレムルスに聞いた。
「なぁ、結局イロナシはどんな場所なんだ?」
レムルスは面食らった顔になると言った。
「えっ!? そんなことも知らないで来たの?!」
「おう、お前の隠し部屋でイロナシを今日、探そうとしてるのを見て急いで準備したからあんまりイロナシの事を知らないんだ」
ロメルスはしれっとした様子で言い放つとレムルスは顔を片手で押さえると言った。
「はぁ……。そもそもイロって何だと思う?」
ロメルスは首を傾げると言った。
「確か、俺等には見えないけど、空中に浮いてる物質だったけ?」
レムルスは首を横に振りながら言った。
「いや、違う」
「じゃあ何なんだよ?」
ロメルスが聞くと、レムルスは言った。
「僕は“感情”だと思っている」
「えっ!?」
レムルスの答えにロメルスは驚きの声をあげた。
「知っていると思うけど、イロの王の物語ではアイズ姫は最後、イロナシに送られた、と言われてるよね。でも、物語ではイロナシがどんな場所なのか全く言われてないよね」
ロメルスは疑問を表情に浮かべると、言った。
「確かに、そんな事何にも言われてないよな。でもさ、今それ関係あるか?」
「うん関係あるんだ」
レムルスは、右に曲がって進みながら言った。
「実は僕の父の書斎にアイズ姫の父親のマルクスが書いた日記があったんだ。そこにはアイズ姫がいなくなった後にマルクスがアイズ姫に1度だけでも会わしてほしいとヨトュンヘルム王に頼んだけど王はそれを断った、と書かれていたんだ。しかしマルクスはどうしても会いたいと思ったらしくいろんな所を探し回ったけど全く見つけることができなかったみたい。そして、下水道の中を探し始めたみたい。時にはここで寝泊まりしながら」
「うぇ、ここで寝泊りしたの! 想像するだけでもゾッとするな」
ロメルスの顔色は青ざめながら言った。レムルスはうなずくと話し始めた。
「うん、僕もここでは寝泊まりできないよ。でもマルクスはそこまでしてもアイズ姫を見つけたかったんだね。そして下水道の中を探して1週間、下水道のかなり奥にさらに暗い場所を見つけたみたい。多分そこがイロナシだと思う。マルクスは最初、若干ためらったけど意を決して中に入って行ったみたいなんだ。最初は何にも見えなかったんだけど、けれど、しばらく進んで行くと小さな光がぼやぁと見えてきたみたい。マルクスは光に向かって進むとその光は街灯の光だと分かったんだ。そこで周りを見ると、幾つもの家が真ん中にある丸い台を中心に円形状に広がっていたんだ。そして街灯の光以外の光がなく、周りに歩いている人々はまるで生気がなかったみたいに歩いていたんだ。それを不気味に思ったマルクスはその場を離れると、目の前から1人の女性が歩いてきたんだ。実はその人はアイズ姫だったんだ。……よっと」
レムルスは道の間が空いている所を飛び越えながらロメルスの方を向きながら言った。
「少し休憩しない? 話は休憩が終わったら話すよ」
ロメルスは「そうだな」とうなずいた。2人は座るとレムルスはバックから、水色のイロを入れた専用の水筒とチーズと干し肉を取り出した。それを2人で分けて食べ終わると、レムルスは再び話し始めた。
「アイズ姫を見つけたマルクスは早速連れて帰ろうとしたんだ。けれどもアイズ姫はマルクスのことを覚えていたにも関わらず、帰ろうとしなかったらしい。それに、アイズ姫は表情が全くなくて、喋り方にも抑揚がなかったんだって。けれどもマルクスは諦めずに、娘を連れて帰る為にイロナシで寝泊りをしたんだ。その後もアイズ姫に帰るように言ったけど全く変える気配を見せなかったらしい。そして、日が立つ度に段々と日記も感情のない書き方になっていたんだ。そして父親がアイズ姫を見つけて6日以降マルクスは、一切アイズ姫を連れて帰ろうとせず、そこでの1日の行動を書くだけの記録の様になってしまったんだ」
レムルスが話し終わるとしばらく2人は見つめあった。するとロメルスがレムルスに聞いた。
「つまり、父親は感情が奪われちまったってことか?」
レムルスが「うん」とうなずきながら答えると、ロメルスはもう一度レムルスに聞いた。
「じゃあ父親が見た人々って誰なんだ? ていうかそもそも何でアイズ姫はイロトリを破壊しちまったんだ?」
レムルスは苦虫を潰したような顔で言った。
「多分、当時の貧民の人たちだと思う。ヨトュンヘルム王が好きなロメルスにとって辛い話かもしれないんだけど、ヨトュンヘルム王が人から、感情を吸う為に貧民街の人々をイロナシに閉じ込めたんだと思う」
するとロメルスの声が下水道に大きく響いた。
「はぁっっ!? 何言ってんだよ、ヨトュンヘルム王はイロを見つけて数々の人々を救ったすげー人なんだぞ! そんな人が誰かの困らせる様なことするわけないだろ」
レムルスは、困った様な顔になりながら、言った。
「でもヨトュンヘルム王がイロを発見した頃から、当時の貧民層の人数が急減したんだ。だから、アイズ姫は、ヨトュンヘルム王のしていることに気付いて、イロトリを破壊したんだと思う」
ロメルスは、まだ信じられないといった顔で頭を抱え座り込んだ。レムルスはロメルスと同じ様に座り込みながら言った。
「ロメルスがショックを受けるのはわかる。けど聞いて欲しいんだ。僕の本当の目的はイロトリを破壊し、今いるイロナシの人々を助けることなんだ。そしてその人たちを連れて、まだガイル国となんの関係のない東のナスピ国に行って保護してもらおうと思うんだ」
少し元気がないままのロメルスがレムルスに聞いた。
「そんなにうまくいくかよ?」
するとレムルスはカバンから1冊のノートを取り出して言った。
「実はマルクスの日記をこっそり盗んでおいたんだ。だから、これを渡して、僕の今までの話を聞いてもらおうと思う。それに僕らはその……友達だろ、だから手伝って欲しいんだ」
ロメルスは少し顔が赤くなったレムルスをじっと見ると、立ち上がり言った。
「ごめん、お前が嘘ついてる訳ないよな。ちょっと動揺しちまった。でももう大丈夫。さっさとイロトリを壊しに行こうぜ」
レムルスはロメルスを見るとにっこり笑うと言った。
「うん!」
そして2人は再び下水道を歩き始めた。しばらく歩くとさらに暗い場所があることを発見した。そこは下水道の暗さよりもさらに暗く、光さえ吸収してしまう様な暗さであった。レムルスは暗闇を見つめながら言った。
「多分、これは黒のイロを使ってるんだと思う。だから、これを持ってきたんだ」
そう言うと、レムルスはバッグから透明の袋に入れて白く輝くドライアイスのイロを出した。
そして、レムルスが先に歩き出すとロメルスは後はその後について行った。
暗闇の中はレムルスの持っている氷のイロ以外何も見えなかった。しかし次第に遠くの方から小さな明かりが見えてきた。そのまま2人は歩き続けると街灯の形がはっきり見えるところ位置まで着いた。
真ん中の円を中心に家が拡がっており、街灯の光以外イロがなくがなく、歩いている人々の顔には感情が全く無かった。。
ロムルスはあたりを見回しながら、言った。
「何だかここに居るだけでゾッとするな」
レムルスは「そうだね」と言うとバッグの中から風船と風のイロを取り出し、風船の中に風の色を入れて、風船をどんどん膨らませていった。
ロメルスが「何してるんだ?」と尋ねるが、レムルスはその質問を無視し、風船を通りすがりの男性の方に持っていくと、中の空気に耐えられなくなった風船が男性の目の前でパーンと言う大きな音を立てて破裂した。
しかし、男性は眉1つ動かさず、まるで何ごともなかった様にその場を去っていた。
レムルスの行動を一部始終見ていたロメルスがレムルスに言った。
「レムルス! 何してんだよ」
レムルスは申し訳なさそうな顔をロメルスに向けると、言った。
「ごめん。本当にイロナシの人々は感情がないのか試しておきたかったんだ。予想通り、全く反応しなかったね」
ロメルスは気にしていないと言う様に首を振りながら言った。
「いや、大丈夫。それよりも段々、気分が悪くなってきたしさっさとここから出ようぜ」
レムルスはうなずき、先程歩いた道の方に歩き出した。しばらく歩くと2人は下水道とイロナシの間に位置する暗闇の前に着いた。
そして、暗闇から出るとロメルスがレムルスに言った。
「なぁ、イロトリを破壊する前に仲間にしたい奴がいるんだけどいいかな?」
レムルスは少し考えると、「あぁ!」と言う顔になった。
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