” twice in a blue moon ”
次の日、ダーラーは1人でやってきた。
「ダーラー、何をしに来た?
お前の娘と政略結婚は絶対にしないぞ」
「いやいや、そんなつもりはもうねぇ
それより、お嬢ちゃんと話がしたいな」
「私ですか?」
「君には悪い思いをさせたね。
許してくれなんて言うつもりは無いが、少し噂の話をしたくてね。
君は確か、指輪を無くしたんだっけ?」
「はい」
「それはどんな指輪かね?」
「月長石という石のついた指輪です」
「んん、そうか、やっぱりか。
月長石っていうのは、昔から不思議な力を持つと言われていて、満月の晩に願いを込めると、その願いが叶うと言われる。
もしかしたら、お嬢ちゃんが知らずのうちに、願いを込めたのかもなぁ。
だから、この世界に来たのかもしれない」
「そうか、じゃあユツキはその月長石に願いを込めれば、、」
「いや、特殊な力を持つ月長石でなければならねぇ。つまりその指輪じゃなきゃならねぇんだ」
「そんな、」
「だから今、一生懸命探してんだがよぉ、見つかりそうもねぇ。だが、良い噂を聞いた。ずっと昔、ここから少し北にある湖に、月長石を運んでいた馬車の積み荷が落ちちまったらしい。もしもその中に、特殊な力を持つ月長石がありゃ、願いは叶うぜ。その後俺はそれを掘り返し、特殊な月長石の力を、、、おっと、これは失礼。
まぁ、そういう事だ。
やるもやらぬも、お嬢ちゃんの勝手だぁ。
邪魔したな」
ダーラーはそれだけ言って帰っていった。
「やったな、優月!帰れるかもしれないぞ。オム!次の満月はいつだー?」
それからは早かった。
なんと今日が満月だったのだ。
王子の指示のもと、大急ぎで準備が始まった。
周りは、あたふた走り回る中、優月だけが取り残されていた。
「そっか、私は、、、」
優月は1人で宮殿を歩き回った。
綺麗だが、優月にとっては、家のような温かさを感じていた。
ここに残りたい気持ちが、無い訳でもなかった。
できることなら、王子と結婚してもいいと思った。
ただ、あの時オムの願いを断ったのは、
元いた世界の温もりも感じたかっただけだった。
贅沢な自分の心を恥じた。
変わらないものなど無いのだ。
重要なのは今が幸せか、そうではないかだ。
元いた世界を美化し、目の前の幸せを自分は捨てたのだ。
日が沈み、馬車が出る時間になった。
一緒に生活した女中に感謝し、馬車に乗った。
池に着く頃には、既に日は落ち、綺麗な満月が輝いていた。
湖を背に優月は、成功を祈る人々の方を見た。
「みなさん、本当にありがとうございました。みなさんに会えて、みなさんの優しさに触れて、とても幸せでした。ありがとうございました。」
そして急いで湖の方を向いた。
親切にしてくれた人々に、涙を見せたく無かったからだ。
しかし、なかなか勇気が出ない。
湖に飛び込むのが怖いからでは無く、
別れが近づけば近づく程、執着心が湧くからだ。
優月はついに飛び込まなかった。
そして振り返って、
「やっぱり、やっぱりみなさんt.....」
王子は振り返った優月の肩をポンと押した。
優月はバランスを崩し、湖へと落ちていく。
優月が見たのは、いつもの、
少年のような顔で笑う王子だった。
「これで、良かったのか?」
ダーラーが王子に聞いた。
「良いんだ、ダーラー」
王子は、ポケットに手を入れると、
中から例の月長石の指輪を取り出した。
「せっかく探し回ってやったのによぉ、
結局返さねぇとはどういうつもりだ?」
王子は月に指輪をかざしてこう言った。
「ダーラー、僕は返さないなんて言ってないよ。これはちゃんと僕の手で返すよ。彼女は僕を信じてくれてるからね」
そう言うと王子は馬車へと向かった。
「・・・さん?・・・姉さん?
大丈夫?姉さん?」
目の前に弟の顔があった。
「ん?あれ?え?」
パニック状態だったが、
「階段から落ちたのか?」
と、父が聞いた為、状況を思い出した。
「そうだった!なんかあんま覚えてないけど、ながーい夢を見てた気分」
「ええ?この一瞬で?」
「凄いな」
男2人が謎の感心をしている。
「痛いところは無いか?」
「うん、痛いところ無い、、」
辺りを見渡すと、ついさっきダンボールに入れたものが全てぶちまけられていた。
ふと、何かを思い指を見た、が何も無かった。
頭を打ったのか、寝込んだ日の朝のような気分だった。
しかし、体調は悪くなく、その後も明日に控えた引越しの準備を進めた。
それから3年経った夏の日。
近くのコンビニで、いつも通り「週末のご褒美」としてプリンを買って帰ろうとした。
蒸し暑い夏の日々。
優月の周りは盛り上がっていた。
夏、恋愛、恋人。
関わりが無い訳でもない、と思っていたのは優月だけだったらしく、苦労して2ヶ月前からジムに行った意味も、今のところ無いようだ。
綺麗な月を眺めて、夜道をあるいていると、
反対側から歩いてきた男が「あの!」と声をかけてきた。
ただのナンパかと思ったが、
「ユツキ、来ちゃったよ」
と、訳の分からない事を言った。
見知らぬ男が自分の名前を呼んだのが怖くなった時、その男は来ていたスーツから箱を取り出した。
「忘れ物、届けに来たよ!!」
男は、少年のような顔で笑うと、中から指輪を取り出した。
旧約 月に踊らされて 作家志望A @o-tyan
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