” TRUST ”

コンコンとドアが叩かれ、

「入ってもよろしいですか?」と男性の声がした。

窓から日が差し込まれていて、部屋は明るくなっていた。

優月はベッドの端に座り、

「はい、大丈夫です」と答えた。

ドアが開かれると、‪昨晩‬会った青年が立っていて、

優月を見ると心配そうな顔をして側に寄ってきた。


「怪我は痛みますか?」

「いえ、おかげで痛みはないです」

「良かった、ところで服は気に入りましたか?」


手当てを受けた際、着ていた服が汚れていたので

女中が持ってきた服に着替えさせてもらっていた。

持ってきた服は、青色のサリー(インドの伝統服)だったので

今自分のいる場所がおおよそインドの方であると分かった。

元々、助けてくれた青年の服装からも日本ではないことは分かっていた。


「ええ、とても可愛らしくて気に入っています」

仮にここがインドであったとして、なぜ言葉が通じるのか分からなかった。

やはり、これは夢なのだろうか?


「そうか、まだ名前を聞いていなかったのですが、お聞きしてもよろしいですか?」

「川風優月と申します」

「カワカ、、ユ?」

「川風優月です」

「、、、なんて呼んだらいい?」

「優月でいいです」

「そうか、ユツキ、よろしく」

「あの、私はあなたを何と呼べばよろしいですか?」


優月が聞くと、ドアの向こうから声がした。

「失礼な!こちらはこの国の王子ですぞ」

「オム!あ、紹介するよ。

彼はオム、僕の世話係みたいな人さ。

それから僕はこの国の王子、

名前は長いから王子でいいよ」

「え!すみません。よ、よろしくお願いします」

戸惑いながらも優月は挨拶をした。


「王子、今日もお勤めがありますよ」

「あーそうか、じゃあ僕はもう戻ります。

女中の方に朝食を頼みましたので、どうぞ気を休めてください」


そう言うと王子は、優しい笑顔を浮かべ部屋から出て行った。




その朝食の後の事だった。

部屋でくつろいでいると、またドアがノックされた。


「僕だ、入ってもいいか?」

王子の声がした。


「ええ、もちろんです」

そう答えると、すぐに部屋に入ってきて、

ドアを閉めた。

とても慌てている様子だったので、

何かあったのか尋ねると


「オムの話が長すぎて、逃げちゃいました。

ここに隠れてていいですか?」

と、いたずらっ子の様な笑顔で聞いてきた。


「い、いいですよ」

そう答えると、王子は物陰に隠れた。

しばらくして、ドアがまたノックされた。


「オムだ!僕はいないと言ってくれ!」

王子がひそひそ言った。


「失礼します、王子がこちらには来ませんでしたか?」

と言いながら、オムが入ってきた。


優月は、精一杯のすっとぼけた顔で

「いえ、こちらにはいらしてません」

と、答えた。


オムは顔をしかめ

「そうですか、もし見かけたらお知らせください」

と言って、戻って行った。


「助かった、ありがとう」

王子は植木の後ろから出てきた。


「ところで、歩く事は出来ますか?」

「足はもう治りました!もう歩けます。

軽くひねっただけみたいです」

「そうか、それは良かった!

じゃあ、散歩でもしませんか?」

王子が少し照れて聞いてきた。


「ええ!?もちろんです!」

そうして2人は、こっそり廊下を通り、外に出た。

昨日は暗くて気が付かなかったが、

宮殿は思っていたよりも大きかった。

細部までこだわってある装飾は、カラフルで芸術的だった。

しばらく街を歩く人々を眺めて歩くと、

とても賑わっている場所へ来た。


「ここは、この辺で1番大きい商店街だよ」

人々がひしめき合い、笑い声や大声で騒ぐ声など活気があった。

大通りの角を曲がった所で、

男が話しかけてきた。


「お!反抗期王子じゃないかー!

また抜け出したのかって、今日はお忍びデートか?!」


「違う! もう僕は大人だ、反抗期っていう歳じゃない!」


「んん?そうかい、そうかい。

まあ、オムさんに叱られんなよ」


「分かってるよ!ちょっとしたお出かけだから」


「ふーん、そうか。そういえば、新しい店ができたぞ、角曲がって右だ。ダーラーが経営してるらしいが、あれは美味いぞ」


「そうなのか、じゃあ行ってみるよ」

そう言って男と別れ、2人はその店へと向かった。



その店はピザのようなものを売っていた。

「ここか、いい匂いがしてるなー」

今で言う、ファストフード店のような感じになっており、中は人で賑わっていた。

しばらくすると、定員らしき男がやってきた。

その店員はインド人らしくなく、体格も違った。

「おすすめのやつ、2枚持ってきてくれ」

王子が言うと、店員は頷き厨房の方へ向かった。

「そうか、ここはダーラーが経営してるって言ってたな」

「その、ダーラーって方はどんな人なんですか?」

「ダーラーはね、ペルシャの方からやってきたやつで、ものすごい金持ちなんだ。

力も強くて、護衛隊を組織してて、この商店街を牛耳ってるんだよ。

街の治安とかも、彼の護衛隊がやってるんだ。お陰で治安は良くなったけど、王族の権威が、なんか弱くなった気がするよ」

「そうなんですか、、、」

「うん、親父もダーラーは危険なやつだって言ってたよ」

いつの時代も権力は複雑な関係で絡み合う。



「はいよ、熱いぜ気をつけな」

店員がいい匂いと煙が登る皿を机に置いた。

優月は王子からピザを受け取った。

「君は、どこから来たの?」

ピザを頬張りながら王子が聞いてきた


「日本から来ました」


「日本?どこだ、それ?」


「ここよりずっと東にある国です」


「へぇー、じゃあ何で森の中で寝てたんだ?」


「それが私にも分からないんです。

引越しをしようとして、家の階段から落ちちゃって、気づいたら森にいたんです」


「引越しをしようとしていた時は日本って国にいたのか?」


「ええ、そうです。これは多分私の夢ですよね」


「夢?」


「ええ、きっと目を覚ましたら家にいるんですよ。それまではこの世界で暮らしますよ」


「へーそうなのか、じゃあ、いつ目を覚ますんだい?」


王子がニヤニヤしてきいてきた。


「いつ?」


「もし、ずっと目が覚めなくてこのままだったらどうすんだ?」


「、、、?」


王子は笑っていた。


「面白い人だな」


優月はいづれ目を覚ますと思っていた。

しかし、世界はそんなに優しく無いのかもしれない。

この世界で歳をとって、シワシワのおばあちゃんになってから目が覚めるのか?

もしこの世界で死んだら目は覚めるのか?

急に不安を感じて、固まってしまった。


「このまま帰れなかったらどうしよう、、」


優月がそう言うと王子が近づいて、

「そんな訳ないよ。僕がきっと、もとの世界に帰してあげるさ。それまではこの世界を満喫しなよ?

不安で立ち止まってしまうのはもったいないよ」

そうして優しい瞳で笑った。



それから、街をいろいろと歩き回った。

街はとても綺麗だった。

建物には細かく装飾が施されていて、

本当に別な世界に来ているようだった。

ゾウに乗ったりもして、1日を楽しんだ。

そして日も落ちかけた頃、2人はベンチで語り合った。


「ユツキ、君の夢はなに?」


「え?」


「夢だよ。僕はこの世界を旅する事が夢さ。

素晴らしいと思わないかい?

僕達が立っているここは、広い宇宙を旅する船なんだ、地球って名前の。

でも僕は、ほんの一部しか地球を見た事がない。僕はもっともっと見てみたいんだ。

ユツキは?」


「夢、、、素敵な男性に出会って幸せに暮らす事、ですかね」


「いい夢だね。人を愛するというのは、人間から切っても切れないものさ。なぜなら人は、信じないと生きていけないからね」


王子の言っている事は少し難しかった。

分からないという顔をしていると、


「愛する事って言うのは信じる事なのさ」

と言い、王子は少年のような顔で笑った。


「そうですねー、私の夢は、王子が勤めから逃げ出さない立派な国王になる事です!」


後ろにいたオムが、急に声を出した。


「うわっ!!」


「王子!勝手に出歩かれては困りますぞ!

そしてお嬢様も!」


オムは文字通り、カンカンだった。

3人は綺麗な夕焼けを背に、宮殿へと向かった。

その時、優月はふと指輪を思い出した。


「ない!」


「うわっ!ビックリした。どうしたんだい?」


「ずっと指にしてた、指輪が無いの!」


「え!?それは大変だ。すぐに街中を捜索させよう、オム!」


「ええ、かしこまりました。すぐに家来に探させますが、小さい指輪など見つけられるかどうか分かりませぬぞ、、、」


「ユツキ、その指輪は必ず見つけて、君に返すから安心してくれ、僕を信じてくれ!」

また王子は、少年のような顔で笑った。




それから数日後の夜の事だった。

コンコンとドアが叩かれた。

優月は 「空いてますよ」と答えたが、

しばらく返事がなかった。

そしてゆっくりとドアが空いた。

そこには黒い服に身を包んだ男が、小刀をもって、ぼうっと立っていた。


「ひ、ひゃあーー!」


優月は悲鳴をあげた。

悪い冗談だと願ったが、悲鳴を聞いた男は弾かれたように優月向かって飛びかかってきた。

優月は急いでベットから飛び降り、

素早く部屋から出て助けを求めた。

しかし、すぐに小刀を持った男が追ってきた。

さっきまで横になっていた為、足元がフラフラする。悪夢のように走っても走っても前に進めない。

あっという間に男との距離が縮まったが、

偶然にも柱が多い広間に来ていたので、

優月は偶然にも上手にかわすことができた。そして、来た道を戻って走り出したが、また男がすぐ迫ったきた。

恐怖で後ろを振り返りたくなった。

しかし、一心不乱に走り続けた。

男の息遣いがすぐ側で聞こえる。

優月は恐怖心に負け、ついに優月は後ろを振り返ってしまった。

その瞬間、運悪く、彼女はまた派手にコケた。


男は走るのをやめて、ゆっくりと優月にちかづいてきた。

フードのようなもので顔の半分は隠れていたが、口は不気味に笑っていた。

小刀を持っている手が震えている。


「あひゃひゃひゃひゃ!」

男が不気味に笑い優月に小刀を近づけた時、

後ろから「やめろ!」という声がして、

誰かが剣で、小刀を弾き飛ばした。


「大丈夫か、ユツキ?」

「お、王子!」


フードの男は、急いで小刀を拾って逃げ出した!


「待て!あいつ、誰だ?

でも待てよ、どこかで見たな、、、」

王子が剣で小刀を弾き飛ばした時、

一瞬、男のフードが脱げ顔が見えた。

確かにどこかで見た顔だった。


「ユツキ心当たりはあるか?」


「んー、、」


「とりあえず、怖かったよな。

オムを呼んであるから、部屋に戻ろう」

王子は優月の部屋まで付き添った。

途中でオムと、オムの家来とすれ違った。


「おお、王子、ご無事でしたか。何よりです。」

「オム、まだアイツはこの中にいる、気をつけてくれ」

「お任せ下さい、この手で捕まえてみせますよ!」

「いや、オムは歳だから無理すんなよ」

「王子、、、」



部屋に戻った優月と王子は、

緊張の代わりに不安が襲ってきた。

まだ、あの男はここにいるかもしれない。

まだ優月を狙っているかもしれない。



「アイツは、、、」

王子が思い出したように呟いた。

「思い出したの?」

「いや。ユツキ、絶対に君を守るよ。

信じて欲しい。」

王子が真面目な顔をしたので、優月は変な気持ちになった。

「ええ。」


結局、男は見つからないまま朝になった。

優月はいつの間にか寝てしまったが、

王子もずっと傍の椅子で、ウトウトしていた。


「おはよう、ユツキ」

「おはよう、なんか騒がしいですね」

「うん、ちょっと部屋を出てみよう」


部屋を出ると、オムと家来が、大きな男と取り囲む屈強な男が話していた。


「お、久しぶりじゃないか!未来の国王!」


「ダーラーか、久しぶりだな。」


大きな男は、優月と王子の方へ来た。


「いやー、危なかったそうだね、無事で何よりだ。ま、もう安心してくれ。すぐに私の部下が捕まえてくれるからさ」


「そうはいかない!」

「うるさいぞ、我々が捕まえる!」

オムの家来と、ダーラーの部下が言い争いを始めた。


「ま、野蛮な彼らはほっといて。

お嬢ちゃん、犯人の顔を覚えているかい?」


「ええと、うーん。確か、身長が少し高くて、体格が良かったです。あとは、金歯が入っていたような気がします。目元は隠されていて見えませんでした。」


優月は恐ろしかった昨晩を、できるだけ思い出そうとした。なぜなら昨日の事を思い出すよりも、犯人がまだいる方が恐ろしかった。


「よぉし、お嬢ちゃん あんがとなぁ!

お前ら!犯人の特徴だ!身長が少し高くて、体格がよく、金歯、目は青色だ!絶対に探し出せ!!」

「はっ!」

屈強な男たちが宮殿の各地に散らばった。


「お、遅れを取るな、絶対に探し出せ!」

「はっ!」

オムもダーラーに続いた。


「ユツキ、部屋に戻ろう」

「はい、そうしましょう」

王子は優月の部屋まで急いだ。


「どうしたんです?そんなに焦って。」


「実は、僕はダーラーの娘と結婚させられそうなんだ。」


「そうなんですか、でもそれと関係が?」


「でも、僕は何度も断っているんだ。

ダーラーの娘が嫌いなんじゃない。

政略結婚が嫌なんだ!」


「私もその意見には賛成です。」

オムが後ろから口を挟んだ。


「確かに国王の権威とダーラーの経済力があれば、この国は益々の繁栄を遂げるかもしれません。しかし、ダーラーが政権を奪う可能性もありますし、王子の意見を尊重しないのはいかがなものかと思います。」


「ありがとう、オム。」


「いえいえ、あくまで個人の意見です。

それから王子、少しおやすみなさい。

ベットじゃ無ければ疲れは取れませぬぞ」


「え?ああ、そうか。そうさせてもらうよ。じゃあまたね、ユツキ」

王子は部屋から出ていった。


「愛する事とは、信じる事なのです。

結婚とは、生涯の相棒を見つける事。

王子はあなたを信じておられる。

どうか、王子と結婚してはくれないか?」

かなり唐突に聞かれた。


「ええ!?」


「ダーラーの娘と縁談が出来た時から、

王子は元気が無くなりましてね、何事にも身が入っていなかったのですよ。

しかし、あなたと出会ってから毎日笑うようになり、毎日、あなたとの話を私に話すのですよ。ですから、ぜひこの世界に留まっては貰えないでしょうか?」



長い沈黙の後、優月はゆっくりと口を開いた。

「ごめんなさい、私は元の国に帰らなくてはいけない。」




しばらくすると、王子が笑顔でやってきた。


「犯人が捕まったぞ!ユツキ!」

「ほ、ホント?良かったです」

「もう安心だなー!ははっ」

いつもの少年のような顔で笑った。


「どちらが捕まえたんですか?」

「オムの家来さ。オムは得意げな顔をしてたよ」

「そうなんですか!すぐにお礼をします!

でも、一生懸命探してくださったダーラーさんにもお礼をしなくては。」

「え?ダーラーに?」

「ええ!もちろん。事件が解決したのですぐに帰ってしまうかも!ダーラーさんはどこに?」

「んー。ダーラーにお礼か。

ダーラーは2階を探していたよ。

僕も一緒に行こう」



ダーラーは広間の真ん中に立っていた。

「ダーラーさん、探して下さって、本当にありがとうございます!」

優月は深くお辞儀した。

ダーラーは困惑した表情で見つめていた。


「ダーラー。事件は解決した、もう帰ってくれ。」

キツく言う王子に、ダーラーは何も言わない。


「ダーラー、今すぐ帰るんだ!さもないと、、、」


「帰れねぇな」


「なに?」


「帰れねぇよ、こんなんじゃ」

ダーラーの表情は、困惑から怒りに変わっていた。


「ダーラー、帰らないと言うなら、言わせてもらおう。

犯人の男は、昨日行ったダーラーの店で見かけた。ダーラーの店で働いていたんだ。

今回の事件は、ダーラーが関わってるんじゃないか?」


「な、なんて事を、お前は、言うんだ?

俺が仕向けただと?俺が人殺しをすると?

確かに、犯人は俺の部下だった。

しかし、それは後から分かった事だし、

だいたい、それだけじゃ証拠不十分だろ?」


「確かにその通りだ。

でも疑問がひとつある。もしダーラーが関わってないなら、何で、ユツキから犯人の特徴を聞いた時、言ってないのに、犯人が青い目だって分かったんだ?」



沈黙の後、ダーラーは思い出したように笑いだした。


「俺の娘より、その汚ぇ女に惚れてんのか?お前。許せねぇ、許せねぇよ

殺させるつもりはもちろん無かった。

王子からその女を遠ざけたかったんだ。

だが、もういい。お前らまとめて殺してやる!」



ダーラーは懐から小刀を取り出し、

優月に向かって投げようとした。


「逃げろユツキ!」


王子は剣を引き抜き、飛びかかった。

しかし、ダーラーの方が早かった。

王子の剣をヒラリとかわし、剣を抜いて振り下ろした。

王子は、大男から振り下ろされた剣をすれすれで後ろに飛んでかわした。


「ほーう、やるねぇ、」

ダーラーは、巨体からは想像出来ないスピードで剣を振り回している。

まともに剣を受ければ、剣が弾かれてしまう。

王子は、かわすことに専念した。


「ちょこまか動いて楽しいか?

しっかり剣で受け止めな!」

ダーラーは笑いながら暴れている。


「ダーラー!」

王子は一瞬ダーラーが体勢を崩した瞬間を見逃さなかった。

すぐにダーラーの脇腹に剣を突き刺そうとした。

しかし、ダーラーは知っていたかのように体を回転させてかわし、王子を蹴り飛ばした。

4、5mふっとばされて王子は床に倒れた。


「さぁ、お嬢ちゃんはどこいっちゃった?

叩ききってやるよ、出ておいで」


優月は柱の後ろに隠れていた。しかし、見つかるのも時間の問題だった。


「王子の恋心も、女の体もズタズタに引き裂いてやるよ」


ダーラーがすぐ側までやってきた。


「やめろ!」


王子は立ち上がり、斬りかかった。

ダーラーはヒラリとかわして、また暴れ始めた。

王子は間合いを取りながら後ろに後退した。


「剣術をお前に教えたのはこの俺だ。

その剣の使い方も、俺が教えた!」


「下手くそな教え方で何も覚えちゃいないよ!全部、独学だ!」


そして、2階のベランダに向かい、端まで来た時、王子は剣を受け止める仕草をした。

ダーラーは力いっぱい剣を振り下ろした。

しかし、王子は素早くダーラーの後ろへ回り込み、ダーラーの背中を押した。


ドカーンという音がして、ベランダの端を崩しながらダーラーは倒れ込んだ。1階に落ちてしまう直前でかろうじて王子に引っ張ってもらった。


「よく聞け、ダーラー。

僕は、愛する人と結婚したいだけだ」


王子に引き上げられ、ベランダの床に倒れたダーラーは、しばらく空を仰いでいた。


「そうか、愛ってのは強えなぁ。

はっはは、強えーよぉ。とても、金じゃ勝てねぇなぁ」


ダーラーはその後、また来ると言って出ていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る