旧約 月に踊らされて

作家志望A

” once in a blue moon ”

郊外に住む、優月ゆつきは明日実家を出る。

東京で一人暮らしをするためだ。

肌寒くなってきた、秋の宵。

窓には大きな満月が映っていた。


「あ!これ懐かしい」

部屋の荷物を段ボールに詰める作業中、

10歳ごろに祖父に誕生日プレゼントとして

貰った月長石ゲッチョウセキの指輪を見つけた。

祖父の旅行のお土産も兼ねていた指輪だ。

興味本位で指にはめると、

幼い頃は緩かったが、今はピッタリだった。


「これがイケメンからのプレゼントだったらなー」

青色に輝く月長石は、彼女の疲弊した心を癒した。

「優月?大丈夫か、重くないか?」

一階の父親が、優月を気にかけて呼んだ。

「平気、今降りる!」

返事をしてから段ボールのフタを閉め、階段に向った。


しかし、困ったことが起きた。

前に抱えた段ボールで階段が見えなかったのだ。

一瞬ためらったが、感覚で降りようとした。

爪先で段を確かめ、ゆっくり降りていく。

ちょうど半分まで来た時、

ガタガタガタッ

激しい音ともに優月は階段から転げ落ちた。

「姉さん?大丈夫?」

1階で作業をしていた弟が叫びながら階段に向かった。




1737年 アンベール王国


日が沈まないうちにと、馬を運転する御者ぎょしゃは少し焦っていた。

そのガタガタ揺れる馬車の中には、外を眺めている男が2人座っている。

つまらなそうに外を見ている青年は、この国の王子で、

もう1人の年寄りは、その世話係のオムという男だった。

長らく続いていた沈黙を、唐突に王子が破った。

「止まってくれ!今、人影を見た」

「何を申すのですか?」

「いいから止まってくれ、おそらく女性だ」

オムは御者に止まるにように言ったが、

スピードをかなり出していた為、止まるのには時間がかった。

完全に止まる前に王子は馬車から飛び降り、人影を見た方に走った。

「お待ちくだされ、すぐに真っ暗になりますぞ」

オムは心配性なので、今から王子と森をうろつくのは嫌だった。

しかし、王子は構わずに森へ入って行ったので、

仕方なく数人の家来を引き連れ、王子を追った。




優月が目を覚ますと、そこには木々が立ち並んでいた。

周りに人の気配は無く、

薄暗い森のような所で、1人きりだ。

日は既に沈んだらしく、闇が迫って来ている。

後ろを振り返ると、目を疑うほど大きな木があった。

その幹の下の方には穴が空いており、そこから人が出入りできそうだった。

優月は何も理解できず、自分が死んだのかとも思ったが、分からない。

ふと、強い孤独感と不安を感じた。

しかし、ここにいても状況は変わらないと思い、助けを求めてこの森を歩くことにした。

しかし、どちらを目指していいかも分からず、

周囲を警戒しながらウロウロし続けた。

気づけば半月が登り始めていた。



裸足で土を歩くのは大変で、すぐに足に疲労が溜まった。

視界も悪くなっていたこともあり、優月は足元の木の根に気づかず、

また派手に転んだ。

一連のストレスで、優月は限界だった。

今にも泣きそうになったその時、人の声が聞こえてきた。


「もう真っ暗です、もう明日にしましょう」

「ああ、そうだな、もう帰ろう」


助けを求めるチャンスだと思い

優月は瞬時に、引き留めようとした。


「助けてください!」

大きな声で叫んだ。


すると直ぐに、青年が駆け寄ってきた。

高貴な人のようだった。


「大丈夫ですか?お怪我は?」

「大丈夫です」


その青年が差し出してきた手を取り、優月は立とうとしたが、

右足に痛みがあり、立てなかった。

「足を怪我しています、動かないで。

オム、連れ帰って女中に手当させよう」

と青年は言うと、優月を持ち上げた。



こうして優月は青年に持ち上げられたまま馬車に乗り、

この青年の住む宮殿で手当てを受けた。

とても大きな部屋のベッドに1人で寝かされ、

ぼうっと天井を見ているうちに、うとうとして寝てしまった。

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