第2話


 港街カーストン。 そこは長い海の船旅を経てへル

マンがやっとこさ到着した目的の場所である。 旅客

船であるその船からは多くの乗客がぞろぞろと下船し

ていった。 

 へルマン彼もまたそのぞろぞろと降りていく乗客の

1人である。元々は誰も連れを連れていなかった彼で

あったが今はミチェルという船上でたまたま出会った

女性と共に新たな土地へと足を踏み入れていた。


 「いやあ、やっぱりここは人がたくさんいるねえ。

  変わってないなぁ」


 雑多な人混みに揉まれる中ミチェルがニカニカと笑

って言った。 辺りをキョロキョロと視線をやっては懐かしむような表情をみせる。


 港街カーストンは帝国ラージアにて数少ないの港湾

都市として有名だ。 人口10万人を抱えるこの街は

世界でも限りある大都市であった。

 大きな木造建築にて作られた旅客船それらが湾岸に

いくつも並び立ち停留しているその光景はまさに圧巻

の一言に尽きる。


 ミチェルの呟いた言葉にふと疑問を思いへルマンは

尋ねる。


 「ミチェル、あなたはここに来たことがあるのです

  か?」

 「ん? ああ、来たこともなにもあたいの故郷はこ

  の街の近くだからね。

  昔はここに良く来たもんさ」


 彼女はケラケラと笑った。 なるほど、合点のいく

話である。故郷がこの国ならば彼女が懐かしむのも無

理のないことだった。

 彼女はこの船旅にて故郷に帰るつもりだったのだろ

う、それはへルマンにも容易に想像できることであっ

た。

 これもまた左手を失ったことに関係することであり、事実ミチェル自身としてはこの旅をもって故郷に帰り活動拠点を変えるつもりだったのだ。 


 しかし左手の欠損が治った今もはやそんな予定は白

紙になったわけではあるが、、。


 「ああなるほど、そうだったんですね」


 納得するへルマン。ミチェルはそんな彼を横に本音

を吐露するように口をこぼした。


 「、、、へへ、ほんとはよぉ、あたいはこの船で故

  郷に帰るつもりだったんだ」

 「おやそうなのですか? 片手でもハンターは続け

  ると船の上では豪語してたじゃないですか」

 「勿論続けるつもりだったさ。 でも片手がないっ

  てのはやっぱり色々ハンターやってくには辛えか

  らな。 

  ハンターとしてやっていくためにまずは活動拠点

  をこっちに移すことにしたのさ。 こっちの方が

  色々慣れてるしやりやすいからな」


 ミチェルは両腕を上げてうーんと伸びをする。疲れ

や悩みが吹っ切れたようにその表情は晴れ晴れしたも

のだった。


 「ま、つっても左手が治った以上はそんなことする

  必要もなくなったけどな! こっちに帰ってきた

  もののこれからの予定がなくなっちまったよ」

 

 ハハハッと冗談をほのめかすようにミチェルは快活

に笑った。 彼女自身なぜここで急に自分が故郷に帰

るつもりだったことについて口にしたのかはわからな

かった。 わざわざ彼に話す義理などないというのに、それでもへルマンに話したのは彼女が何となく話したいと思ったからであった。


 へルマンは朗らかに笑う彼女のその様子に微笑みを

向ける。


 「ふふふ、それはそれは、、折角立てたであろう予

  定を潰してしまうことになるとは申し訳ないこと

  をしてしまいましたね。

  お詫び申し上げます」

 「お、おおいっ、謝るんじゃねえよッ!あんたには

  感謝してんだからよっ!」

 

 謝るへルマンに対しミチェルは両手をぶんぶん振っ

て慌てた。謝罪する彼をなんとかやめさせる。 しか

しそんな慌てふためく彼女を見て彼はクスクスと静か

に笑うばかりであった。 

 無論これはへルマンが冗談で形ばかりの謝罪をして

いるだけに過ぎずそれに遅れてミチェルは彼が笑って

いる姿にはたと気づいた。

 彼女はむすりと頬を膨らませる。

 

 「、、ふふふ」

 「ああんた意地が悪いぜ!? 徳の高い僧侶様が人

  を困らせていいのか!?」

 「ははは。これはこれは、申し訳ないです」

  

 へルマンは軽く腹を抱えて笑った。そんな彼の様子

にむすりとしながらもミチェルは話を変えるようにご

ほんと咳払いを一つ行う。


 「まあとにかくだ、これからの予定はひとまず白紙

  になったまったけどよ、せっかく故郷の国まで帰

  ってきたんだ。 とりあえずは一旦、故郷には帰

  ろうとは思うんだ」

 「、、? はあ、それはよろしいことだと思います

  が?」


 彼女の言葉にへルマンはとりあえずニコリと頷きな

がら肯定の意を返す。 上でも記述したがへルマンと

ミチェルは仲間ではなく、それぞれが別々の目的を持

ちただ船の上でお互いに多少のやり取りがあっただけ

の関係に過ぎなかった。

 それ故になぜここで彼女が今後の行動について述べ

るのかへルマンにはいまいち意図が読めなかったので

ある。

 

 しかしこれもまた簡単な話であったのだ。 


 「で、だ。 へルマン、あんたはこれからどうする

  んだい?」

 「これからですか?」

 「そうだよ。 どこかに行かなきゃいけない当てで

  もあるのかい? あたいはあんたがどういう目的

  を持ってんのか知らないからね。

  できればそこのところを教えて欲しいんだ」

 「、、、そうですね、、」


 目的と聞かれへルマンは軽く考える素振りを見せる

と、


 「しばらくはこの街に留まりますかね」

 「この街にか?」

 「ええ。 無論僕には向かうべき場所はありますが、

  ただそれにしてもここは魔の臭いが蔓延りすぎて

  います。 、、とてもじゃありませんが看過でき

  ません」

 「、、ま、魔の臭い?」

 「人類を仇なす魔の殲滅こそが僕の使命。 その手

  始めとしてここをキレイにすることも悪くないと

  思っております」

 「お、おおう? じゃあよくわかんねえけどつまり

  はしばらくこの街にいるんだな?」

 「ええ、まあそういうことになりますね」


 不意に醸し出したへルマンの不穏な空気にミチェル

はやや戸惑うも彼がしばらく街に停留することを知る

とニッカリと嬉しくなった。

 ミチェルは手を治してもらったお礼のために彼に付

いていきたかったのだ。 治癒の対価を払おうもそれ

は断られそれではこちらの気持ちが収まらず、ならば

と思いハンターとしての腕で借りを返そうと思ったの

だった。 

 

 「だったらよ、あたいもしばらくはこの街にいるか

  らあんたの目的に手を貸そうじゃないか!」

 「え?」

 「これは神の奇跡への対価だよ。 あんたお金を払

  おうにも受け取らなかったろ? だからこれくら

  いやらせてくれ。 

  大丈夫、腕には自信があるからさっ」

 「え、えぇと、しかしそれはさすがに、、、」

 

 急な申し出にへルマンは戸惑った。彼女の提案は有

難いとは多少思うもののそれを了承することは憚られ

たのだった。 

 しかし彼女はそれに構わず彼の両肩をがしりと掴む

と大きく揺さぶった。


 「な? 頼むよ!! あたいはあんたのにまだ手を

  治してもらったお礼が一つもできてないじゃない

  か! これじゃあ収まりがつかないってもんだ。

  それにあたいはここらへんの土地勘はあるしハン

  ターの腕だって自信がある! 

  これでも向こうにいた頃はギルドで一番強かった

  んだぜ? だからいいだろ!?なあ?」

 「ちょ、ミミチェルさん落ち着いてっ」


 早口にあれこれと述べて懇願され両肩をぐわんぐわ

んと何度も大きく揺さぶられればさすがにへルマンと

してもこれは堪らない。

 彼女の熱意と勢いに持っていかれるように了承の意

を返事する。


 「わわかりましたわかりましたから!!とりあえず

  肩を揺さぶるのをやめてくださいっ!!」


 それを聞いた瞬間そこでぴたりと肩を揺さぶるのを

止めるミチェル。 そして今聞いた言葉が本当なのか

彼女はすぐには信じられなかったのか、確かめるよう

に聞いた。


 「ほ、ほんとか?」

 「、、ええ、ほんとですよ」

 「ほんとのほんとか? 嘘じゃねえよな?」

 「ええ、嘘ではありませんよ」

 「ほんとのほんとのほんとだよな!! これでほん

  とじゃなかったぶっ飛ばすからな!!」

 「いやだからほんとですって。 なんでそこで変に

  疑うんですか!!」

 

 ミチェルは大柄な体格で豪気な割には妙なところで

神経質であった。しかし本当だという言葉に彼女はぱ

あっと表情が明るくすると喜びを表すように拳を振り

上げた。

 うっしゃああああああああああああああと雄叫びす

ら上げる様子だ。 忘れるところだがここは雑多な人

々が行き交う大通りでありそんな雄叫びをあげれば勿

論多くの通行人から好奇の視線を向けられるのもまた

自明であった。 微妙に居心地の悪さを味わうへルマ

ンであったが当のミチェルは持ち前の豪胆さでまった

く気にしなかった。


 やれやれとへルマンは軽くため息をつく。


 「へルマン!!」


 ミチェルに呼び掛けられそちらへと視線を向ければ

彼女は彼に向けて拳を付きだしていた。 それはそっ

ちも拳を突きだしてあたいの拳とそれを合わせろとい

う表れでありへルマンは何となくそのことをすぐに察

した。

 まさに彼女らしい絆の結び方である。


 「へへっ、これからしばらくの間だけどよろしく頼

  むぜ!!」


 それはとても気持ちのいい笑顔であった。それを見

ると自ずとへルマンもまた相好を崩しそして彼女の拳

へと自身の拳を突き合わせた。


 「、、、ええ、こちらこそよろしくお願いいたしま

  すよ、ミチェルさん」


 






 間幕



ミチェル「と、ところでよぉ、なんかあたいらやたら

     見られてないか? (周囲からの視線+

     それに慌てて気づいたように周囲をキョ

     ロキョロ見る)」

へルマン「はは、そりゃああれだけすごい雄叫びを上

     げれば誰だって見ますよ(呆れ笑)」

ミチェル「、、、、、(固まって頬を赤く染める)」

へルマン「、、、、」

ミチェル「、、、、(視線だけ周囲をキョロキョロ見

     る)」

へルマン「、、あの」

ミチェル「へ、へへっ、ととりあえず早く行こうぜ

     !! な!?

     (へルマンを手を引っ張ってその場を離れ

     る)」

へルマン「、、、あなたは豪胆なのか内気なのかわか

     りませんね。

     見た目的にはいっそのこと開き直った方が

     いいと思うのですが」

ミチェル「う、うるさい!!

     そんなことできるかっての!!」



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