僧侶が魔王を倒しに行ったった件についてwwww

上下反転クリアランス

第1話


 彼は思う。 かの絶対悪なる魔の王は必ずや己が手で滅してみせると。 へルマン・ペッシブ、彼はただそれを胸に海を渡った。



 昔話をしてあげよう。 これはかつて魔王たる存在がまだ討伐されていなかった時代の話であり、当時各国で多くの被害を起こした厄災の原因たる魔王を討伐すべくあらゆる勢力が大々的に動いていた。 

 彼へルマン・ペッシブもまたその内の一人であった。


 「、、ようやくですか」


 揺れる船の上で彼は呟く。 潮風が薙いだ。海特有の潮の臭いが鼻腔にこびりつき平静な顔ながらも内心不快感を覚える。 彼へルマンの視線は海の先にある港町に固定されていた。 

 港都カーストンとはそこはへルマンがはるばる大洋を渡たり目指してきた帝国ラージアにてその国有数の港街であった。


 「ああ、、臭いますねえまったく。 なんて忌々

  しい臭いか」


 鼻をすんすんと動かせば当然磯のかぐわしい臭いが彼の鼻腔を透き通り、またもや彼はその表情を不快げに歪めた。 

 身を包んだ白い修道服に付随するフードを被っていたへルマンであるがそれをまたさらに深く被ってその顔を隠す。 彼の言う忌々しい臭いとは潮の臭いのことなどではなかった。彼の言うその臭いとはそれはまさしく魔物の臭いを指し示していた。 

 それは彼にしかわからない特有の臭気でありへルマンはそれを辿ってここまで来たのだ。


 「ふふふ。 首を洗っておくといいですよ魔の

  王よ。次相見みえた時こそあなたの息の根を止

  めてあげましょう」


 船のデッキの手すりを強く掴みそしてなにか感じ入るように言った。 徐々に近づく港町それに対し彼はただただひたすらにその町を睨み付ける。


 バキッという割れた音が鳴り響く。 それは彼の握力ゆえに手すりが割れた音であり、彼自身無意識ゆえの行動もあってへルマンは手すりが割れたことに気付いてなどいなかった。


 それはまさしく憎悪であった。 その握力、衝動的なまでの力、そこにはまさしく憎悪ともいうべき黒き感情が濁るようにして宿っていたのだ。



 「よおよお、穏やかじゃないねぇ」

 

 後ろから声が聞こえ振り返る。するとそこには革鎧を身にまとい年齢はおそらく三十代ぐらいであろう美人な女性がニヤニヤと笑っていた。

 彼女はミチェル・マイストンと言い、女性にしては長身で引き締まった体格を有しそしてその芯の強そうな瞳と身にまとう雰囲気からは快活なものを感じさせた。

 

 「他人様の船を勝手に壊していいのかい? 

  あんた僧侶だろ?こんな荒っぽいことする僧侶

  あたいは見たことないよ?」


 コツコツと足音を立てて彼に近づいてはからかうようにして諌めの言を放つ。 仕立てのいい金属製のブーツを履いており革鎧も含めそこからミチェルがただ一般人ではないということをへルマンは察した。

 そう、勿論彼女はただの一般人などではなかった。


 「、、、ハンターですか」

 「ああそうさ。 見ての通りな」


 ぼそりと呟いたへルマンの言、それは独り言のような呟きにも関わらずミチェルはそれを聞き逃さずわざわざ丁寧に言葉を返したのだ。

 そこでへルマンは佇まいを正した。にこりと笑う。


 「失礼しました。 まさしくあなたの言う通り

  です。 衝動のままに船を壊してしまうなど

  僕はとんでもなく子供だったようですね」

 「ハハハッああまったくだよ。 なにか悩みでも

  あるんだろうけど人の物を壊すのはいけないね

  ぇ」 

 「返す言葉もありませんね。 僧侶として恥ずべ

  き行為お許しください」

 「いや別にいいんだけどねぇ。これ別にあたいの

  船じゃないし」


 ミチェルは快活に笑うと彼の隣まで歩み寄る。船の

手すりへと背中を預けて持たれかかりそして何故かへルマンの顔をじーっと見つめだした。 それはとても初めて会う人間に対する対応ではなかった。

 へルマンは当然疑問に思った。


 「、、、なにか?」

 「くく。いやなに、まさかここであんたみたいな

  僧侶様に会うとは思ってなくてさ。

  で、せっかくだからここで恩恵にちょこっとあ

  やかれたらなぁってさぁ?」

 

 僧侶。それは教会における敬虔な信徒にして神力と呼ばれる特殊な力を行使する存在だ。 その数はとても少ない。 そしてなろうと思ってなれるものでもないゆえにとても貴重な存在であったのだ。

 へルマンは納得がいったように頷く。


 「なるほど」

 

 ミチェルの左腕へと視線を注ぐ。 彼女は彼になにかを求めていたのだ。 その「なにか」はへルマン自身、自分が僧侶であることを踏まえればすぐにわかるものだった。 そこには包帯が幾重にか巻かれており、見れば彼女は我が意を得たりとばかりにニヤリと笑ってその腕を掲げた。


 「へへ。 実はこの前に狩りをした際に少し怪我

  しちまってよ」

 

 左腕を軽く振りながらミチェルは言った。 表情は穏やかだ。 そこから大した傷ではないだろうとへルマンは考えるがしかしそんな彼女が包帯をぐるぐると剥がしていくとそこに見えたのはまるで予想とは異なったものだった。

 見えたものとは手首から先端、左手がまるまるなくなっていたまさかの様子だった。


 「、、、それのどこが少しなのですか?」

 

 そうそれは少しどころの傷ではなかったのだ。 彼女はハンターなのだ。ハンターとは魔物と戦うことを生業としている以上身体が資本であり片手を失くすなどもはやそれはハンターとしては致命傷にも近いと言っていい事柄だろう。

 それなのにミチェルの顔には陰がささるような様子はまるでなかった。むしろあまり気にしていない様子であった。 


 「まあ命をとられることに比べれば大したことね

  ぇよ。命があってなんぼだからね。 むしろツ

  いてたくらいさ」


 彼女は快活に言いきった。 冗談のようにケラケラと笑いさえした。


 「、、、あなたはハンターでしょうに。 片手を

  失くすということがどういうことなのかわかっ

  ているのですか? もはやその業界で生きてい

  くのも難しいかもしれませんよ?」

 「あ、ああ!?あたいを舐めるなよ? 片手がな

  くてもやっていけらあ。あたいこれでもかなり

  腕利きなんだからな?」

 「、、それは両手が健在ならの話でしょう? 

  片手で魔物は倒せたのですか?」

 「、、、、そ、それはぁ、まだ療養中だし、、狩

  りに行ってねえからまだだけどよぉ」


 視線を反らし顔をやや下に俯かせるとミチェルは言いずらそうに言った。 やはり彼女としても自信はなかったようだ。

 当時ミチェルとしてもハンターとして生きていくことは諦めていなかった。 あの手この手とこれからのことを模索していたしミチェル自身ハンターとして生きてきた以上ハンター以外の生き方など考えられなかった。

 前向きな気質をもつ彼女ながらも片手を失ったという事実はそれなりに深く彼女の心にのしかかっていたのだ。


 しかしそこでもんもんと悩んでいた彼女の視界に入ったのが一筋の希望、僧侶の姿であった。 

 へルマン・ペッシブ彼である。



 「、、、はは。やっぱり、、奇跡でも治すは無理

  そうか?」


 僧侶とは先に言ったよう神力という特殊な力をその身に秘めその意思をもって自在に行使する。 それは神の奇跡とも呼ばれていた。

 神の奇跡その力は時に魔物を追い払い時に魔物を寄せ付けぬよう結界を張ったりなど汎用性が高くその力の種類は多岐に渡った。 しかし世間の下々が最もよく知る神の奇跡とはただ一つ。 

 

 治癒術。 それこそが神が人に賜った最も強力な奇跡の力。 大きな外傷はたまた大病を患った時これらを治せるのはこの世界にて僧侶以外に他はなかった。


 にへらと笑いながらミチェルは聞いた。 ダメ元で聞いているような口調であった。

 彼女の左手首の断面を見るにそこは火傷のような傷で覆われていた。 おそらく出血を止めるために無理に傷 を焼いたのだろう。これはハンターにおいて片手片足を失った者によく見られることである。

 へルマンも当然見慣れていた。


 「、、そうですねぇ」


 じーっと欠損した断面を見つめて特に感慨のない声音でへルマンは呟く。

 その言葉はある種の肯定であった。 それを聞いてミチェルは残念に思うも軽く笑った。


 「、、、はは、そっか、、」


 しかしそれはある種わかっていたことだった。 神の奇跡と呼ばれる力にも限度がありそして使い手によってその効能の内容は大きく変わることを。

 僧侶であろうと治せないものは治せない。 神の力も万能ではないのだ。 ミチェル自身として欠損した身体を治す僧侶などこれまで見たことがなかった。


 仕方がないと心に区切りをつけ彼女がその場を離れようとしたところへルマンはがしりと彼女の欠損した腕を掴んだ。

 

 「どちらに行かれるんですか?」


 その問いにミチェルは怪訝な顔をした。


 「な、なにって、、治せないなら特にここに長居

  することはねえだろうし」

 「、、それはおかしな話ですね。 僕は治せない

  とは一言も言っておりませんよ?」

 「、、、はい?」


 ミチェルはますます怪訝な顔をした。 へルマンの言っていることが理解できなかったのだ。

 無論そうだろう、彼は先ほどそうですねと言ったのだから、だとするなら治せないと理解するのも無理からぬ話である。

 しかし彼のその言葉は肯定の意ではなく単なる相づち程度意味合いでしか使ってなかったのだ。


 「あああんた、さっきそうですねってッ」

 「??? 、、別にそれは治せないという意味で

  言ったんじゃありませんよ」

 

 光が発した。ミチェルの腕を掴む彼のその手から温暖色に満ちた光が発せられたのだ。

 それは僧侶が人を治癒するにあたってよく見る光景の一つであった。 

 彼はさっそく治癒術を始めた。

 

 「『ヒール』」


 たったその一言、たったその一言で治癒術による治癒はすぐさま行われたのだった。 へルマンのその一言により温暖色の光が弾けて消えたかと思えばミチェルの欠損した左手の断面からモゾモゾとした多量の細胞がわき上がり骨、筋肉、皮膚と次々と形が整えられた。

 気づけばあっという間に左手が完成した。 それはもはや一瞬の事柄であった。治癒の影響ゆえか新たに生えた彼女のその左手は透明な体液らしきものでぬちょぬちょしていた。

 

 あまりの出来事にミチェルはポカンと口をあけてその手を見つめることしかできなかった。

 左手の欠損、そこからの人生初めての神の奇跡という体験ゆえに頭で理解しながらも感情が追い付かなかったのだ。

 それもまた無理もない話である。


 へルマンは何でもないかのようにニコリと笑う。


 「いかがですか? 恐らく問題はないと思います

  がちゃんと手は動きますか?」


 彼の言葉にハッとして思考が止まってたミチェルの頭脳が再び起動された。

 言われたことを試すようにぐっぱぐっぱと手を動かした。


 「あ、ああ、ぜ全然問題ないよ。 、、まった

  く、、ほんとに全然、、」

 「そうですか。それならよかったです」


 へルマンににっこり笑われる。 ミチェルはそれを見て徐々に欠損した自らの左手が本当に治ったのだと実感し始めた。


 「あありがと、ほんとにありがとう。 あたいこ

  れで今まで通りにハンターとして食っていける

  よ」

 

 快活なふりにをして気にしないようにしながらも一時はどうなるかとミチェルは悩んでいた。 彼女はハンターとしてベテランだ。ゆえにこれまで通りとはいかなくともハンターとしてやっていく自信はあったがしかし、そのハンターとしての彼女のレベルもそしてその信用もまた目に見えて落ちるものとなっていたことだろう。

 それも当然頭にあった彼女にとってこれは本当に感謝してもしきれないものであったのだ。 ミチェルの瞳には涙が浮かんだ。


 「いえいえ、感謝には及びません。 これもまた

  僕の使命であり義務である。 ここであったの

  も神の思し召しということですよ。

  魔を屠るハンターであるあなたに神のご加護を」


 仰々しく口にするへルマンにミチェルは涙をぬぐって笑った。


 「ハハハッなんだそれっ」

 「ふふ。これは僕たち僧侶がよく使う謳い文句と

  いうやつです。 深い意味合いはありませんの

  で流してもらって結構ですよ」

 「ブハハっそれ言っちゃっていいのかよっ」



 聖職者とされる僧侶とは思えぬへルマンの発言にミチェルは左手を取り戻した喜びも相まってゲラゲラと憚りもなく船の上で笑った。








 間幕


ミチェル「ところでよぉ、これなんでぬちょぬちょな

     んだ?(左手ぬちょぬちょ)」

へルマン「文字通り手を湧き出るように生やしたわけ

     ですからね。 当然その過程で体液も湧き

     出ますからそれで濡れてしまったんでしょ

     うね」

ミチェル「へぇ。まあ確かにマジで湧き出た感じだな

     あれ。 最初見たときは感動でびっくりと

     いうよりキモくてびっくりしたし。

     ハハッ」

へルマン「、、、神の奇跡をそのようにおっしゃると

     は中々豪胆なお心をお持ちですね。

     僕だからいいですが他の目があるところで

     は言わない方がいいですよ。 人によって

     は不敬罪といって私刑にかけてきますから」

ミチェル「えッ!?マジッ?? (口を両手で閉じ辺り

     をキョロキョロする)」

へルマン「まじです(呆れ目)」

ミチェル「、、、こ、こえぇ」


 間幕





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