(二)―9

 駅前から飲食店の建ち並ぶ繁華街に入ると、左右には雑居ビルが立ち並んでいる。そのうちの一つには各フロアにキャバクラが入っているビルがあった。そのエレベーターに乗って最上階まで行くと、ギリシャ神話の女神の名を冠した「アフロディーテ」という名の店があった。黒塗りのガラスのドアを開けて中に入ると、L字のソファが五席ほどあり、奥にはバーカウンターがある落ち着いた雰囲気の店だった。

 この夜、その店の一番奥に位置するブースには、初老の男性三人が華やかなドレスに身を包んだ若い女性三人を侍らせており、ノーネクタイのスーツの男性二人がブースの前に立っていた。二人は、席に座って談笑している三人とは対照的に、緊張した顔でそれぞれ左右に視線と意識を飛ばしていた。


(続く)

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