【Answer】 踏み出されたその先に

ちえ。

踏み出された一歩の先

 私には古い幼馴染がいる。物心ついた時には私はその彼、純太が好きだった。


 昔、私は極度の人見知りで保育所の壁際に一人で佇むような子だった。純太はそんな私を迎えに来て、手を引いて友達の輪に戻る。私が知らない子供に囲まれて固まっても、純太はいつも助けてくれて、自然に笑いかけてくれた。純太がいれば知らない誰かは怖くなくなり、そのうち皆知り合いになった。純太の男友達と対等に笑い合うようになった頃には、男ほど粗暴でも考えなしでもない女の子に緊張はしなくて、私はもう人見知りを克服していた。


 純太はモテなくはない。でもそれに気付かない鈍い男だ。

 顔や頭がいいとかではないが、逆に何も劣っていない。欠点がないうえ優しくて面倒見が良いのだから、憧れる子は何人もいた。

 だけど純太は気付くことなく反応もいまいちで、彼女たちの恋心は育つ前に散り去った。

 私だけだろう、今も昔も想っているのは。気付いてくれない鈍感野郎が好きで仕方ないのだ。

 幼馴染を貫いて高校最後の夏。秋と冬を経たら、もう一緒にいられないかもしれない。憂鬱な苦さに胸を占められるのに、会えただけで嬉しくなる。私は幼馴染を止められない。


 学校の帰り道、偶然純太に会った。

「告白されたんだって?付き合うんだ?」

 少し前、私は我が校の王子と名高い男子に告白された。お断りしたのに、なぜか付き合っていると噂になっている。私はどこか気まずくて言葉を探した。純太は慌てて言葉を続ける。

「お似合いかもな、でも、でもさ、」

 絡んだ視線は真剣で、胸が高鳴った。

「やっぱり付き合うなよ、俺の方がずっとお前のこと好きなんだから。」

 空気を飲んだまま呼吸を忘れる。言葉が頭の中をぐるぐると巡り、理解できた瞬間に私はがくりと崩れ落ちた。アスファルトに座り込み詰めていた息をげほげほと吐き出す。心臓の音が頭の芯で鳴り響き、汗が吹き出すほど熱い全身は真っ赤に染まった。

「っ…?!友花!」

 純太は慌てて私に駆け寄り手を差し伸べる。

 ――こういうところが堪らなく好きなのだ。

 嬉しくて、愛しくて、にやけた顔で差し出された手を握る。昔よりずっと大きな手。いつも私を助けてくれる力強い手。

「私のほうがずっとずっと、純ちゃんを好きだよ。」

 純太の瞳が見開かれる。そして私と同じようにその頬は真っ赤に染まった。

 重ねた掌が熱い。

 嬉しくて、幸せで、面映ゆくて。私たちはお互いに顔を背け合ったのだった。

強く手を握りあったままで。

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