14 星芒 (8)
シノブは猛然とキヨミにむかって走りだす。
キヨミがサイコキネシスを放つ。
シノブはそれをジャンプしてよけつつキヨミに接近すると、空中で勢いの乗った状態で、頭部にむけて蹴りを入れる。
キヨミはその攻撃をまともにくらった。
よろけるキヨミに向け、着地したシノブが体を回しながら、さらに蹴りを入れる。
今度は、キヨミは腕で防御し、直後にサイコキネシスでシノブをはじく。
だが、力をためずに放ったサイコキネシスは、たいした攻撃力はなく、シノブは数歩、後ろによろけただけだった。
すぐさまシノブはパンチをキヨミの顔面に入れる。
キヨミはサイコキネシスでガードしたが、しきれず、左頬に拳をくらって、よろめく。
その隙に、シノブは、銃にむかって走る。その背中に、サイコキネシスをうける。
弾き飛ばされる。
だが、飛ばされつつも、空中で体を側転させ、シノブは床に転がるP2000をつかみとる。
追いすがってくるキヨミ。
シノブは、地面にころがりつつも、体勢を立てなおし、片膝立ちになって銃を構える。
キヨミはすでに目前。
その眉間に向けられた銃口が火を噴く。
弾丸はキヨミの眉間に命中し、その体をのけぞらせた。
かに見えた。
キヨミはゆっくりと体を起こす。
その眉間の紙一重の空間に、まだ回転力を失わずに回り続けている弾丸が、停止していた。覚醒したキヨミは、もはや弾丸を静止させるほどの、強大なサイコパワーを獲得していた。
「なめるなあっ!」
叫んでキヨミは、その弾丸を、サイコキネシスを使ってシノブに飛ばす。
撃ちかえされた弾丸は、シノブの左肩を貫いた。
「あ、ああがっ」
シノブは悲鳴とともに、倒れかけたが、気力をふりしぼり、足をふんばらせ、銃を数発撃つ。
だが、そのうち二発はそれ、二発はキヨミの前に静止している。
ふたたび撃ちかえされる弾丸。
二発の弾丸は、シノブの右脇腹をえぐり、左モモを貫通した。
シノブは、その痛みにかまわず体を立てなおして、全身でキヨミにぶつかっていく。
弾丸に射抜かれた体で、突撃してくるとは思いもよらなかったキヨミは、隙をつかれたかたちになった。
シノブの体当たりを食らい、仰向けに倒れ込む。
勢いのついたシノブの体は、キヨミの体を乗り越えて、空中で一回転すると、背中から地面に落ちた。
ふたりはしばらく、激痛にうめく。
やがて、ふたり同時に体を起こす。
だが、傷の少ないキヨミのほうが、先に立ちあがった。
「なめんじゃあないっ、このメスブタがっ!」
叫びつつ、キヨミはサイコキネシスをまとわせた
あおむけに倒れ込むシノブ。その手には、もう銃は握られていない。
キヨミは腕をのばすと、シノブの首をしめつけるようにして、サイコキネシスを使って体を持ち上げた。
「ぐ、ああ、ぐああっ」
シノブは息ができず、悲鳴すらもかすれてしまう。
「これから」キヨミが狂気に満ちた顔で言う。「お前の全身の骨を少しづつくだいて、内臓をひとつひとつ潰していって、地獄のような苦しみを味わわせながら、殺してやる」
その死刑宣告に答えるように、シノブの口がぱくぱくと動いた。
「なに?なにか言いたいの?」
勝利を確信し、憎悪と狂喜が混ざり合った顔で、キヨミは問いかける。
シノブの口が動く。
なにが言いたいのか、興味を引かれたか、キヨミはシノブの顔をみずからの顔に近づける。
シノブの口に、キヨミは耳を寄せる。
と。
「クソビッチ」
シノブの口から、かすれた悪態がささやかれる。
キヨミの頭のどこかで、なにかが切れたような音がした。
「ざけんなあっ!」
キヨミは、野球のピッチャーのようにふりかぶり、シノブの体をボールのごとく投げ飛ばした。先ほどの宣言を怒りによってまったく忘れ、もはや一息に息の根をとめようとするかのごとく、超能力を使ってぶん投げた。
シノブの体はヘリコプターの横を抜け、そのままビルの外まで飛んでいく。
ようにみえた。
だが、その飛びゆく先には、給水タンクが立っていた。
シノブは、円筒形のタンクの側面に、食い込んでとまった。
ゴツリとタンクが凹む音と、体のどこかの骨が割れる音が交錯する。
そこへ、走りよったキヨミがサイコキネシスを放つ。
シノブは、大の字に体を広げ、その全身をタンクに押し付けられた。
キヨミは両腕を突き出し、ありったけの力を込めて、サイコキネシスを放ちつづける。
シノブの体は、給水タンクに圧しつけられ、体中の骨が悲鳴をあげる。
「ぐあ、あああああっ!」
凄まじい圧力が全身を押しつぶす。まるで、戦車に押しつぶされているかと思えるほどの激痛が全身をつつむ。
凹んでいくタンクのどこかが割れ、なかの水がいたる所から噴出される。
「終わりにしてやるっ!」
キヨミは叫ぶとともに右手を横にのばす。
そして、その手になにかをつかむような動作をすると、右腕を、なにかを持ちあげるように力をこめて、空に向かってあげていく。
その動きとともに、キヨミの横にあったヘリコプターが宙に浮きはじめた。ブルドーザーで持ち上げられるように機体を軋ませ、なにか金属がこすれあうような耳障りな音をとどろかせ、じょじょに、高度をあげていく。そして、十メートルほども持ち上げられたとき、上昇を停止させた。
シノブは強くゆがめた顔の、まぶたの隙間から、その光景を目にする。そして、自分の最期の時が近づいていることを、実感していた。
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