13 星芒 (7)

 キヨミはさらに攻撃を続ける。

 シノブは、飛来する砂利をどうにかかわしていく。

 キヨミのまわりに浮遊する砂利もずいぶん数が減少し、隙間ができてきた。

 ――もう数発で、ビッチに当てることができそうだけど……。

 残弾がわからない。射撃した弾数を数えておくべきだった。

 トビタに笑われるだろう。

 もっと先を考えて動け、バカ。

 頭を使いながら行動しろ、バカ。

 反射神経で動くな、バカ。

 ――バカバカうるせえ、ダメ刑事っ。

 シノブは妄想のなかのトビタに悪態をつく。

 鉄製の階段を駆けのぼってくる足音が、鈍く、風にのって響く。

 ――この位置だと、弟がここに到着したら、すぐに心を読まれてしまうんじゃなかろうか。

 シノブは考えた。どうする。さがるか。ここにとどまるか。それともキヨミの虚をついて、突撃するか――。

 足音はしだいしだいに、高まる。

 そして、イサミがヘリポート上に姿を現す。すぐにこちらを認めて、姉の背へと走る。

 キヨミがシノブの注意をそらそうと、砂利を撃つ。

 シノブはその攻撃を右にころぶようにしてさけた。

 近づくイサミ。

 体ごと右に倒れつつ、射線をさぐるシノブ。

 イサミがテレパシーの射程範囲にはいる。

 P99の引き金が引かれる。

 リンクする三人の心。

 砂利の間隙を走る弾丸。

「あっ!?」

 キヨミが叫んだときはすでにおそかった。

 シノブの撃った弾丸が、砂利の間を通り抜け、イサミの眉間に命中した。

 肩から、地面に激突するシノブ。

 後ろによろけていくイサミ。

 振り返るキヨミ。

 イサミの体はやがて、腰ほどの高さのフェンスにぶつかり、のりこえ、地上へと落下していった。

「イサミちゃん!」

 砂利を地面にまき散らし、イサミのもとへ走りよるキヨミ。

 だが、フェンスから身を乗りだし、地上をのぞいてみても、暗黒のなかには何も見いだせない。遺体が地上に激突した音すら、ここまでは届かない。

「よくも……」

 キヨミはゆっくりと首をまわし、立ちあがりつつあるシノブをにらむ。その満面に怒気をみなぎらせ、目を血走らせ、先ほどまでの艶やかな、端正だった顔はもう、ない。

「よくもやってくれたなっ、このメスブタっ!」

 キヨミの目が異様な輝きを発する。

 シノブのもとに瞬時に走りよると、キヨミは全身の力を込めて、シノブの腹部を蹴り上げる。

 サイコキネシスをのせたその蹴りは、シノブを数メートルふっ飛ばし、飛ばされた体はさらに数回バウンドする。

 うずくまるシノブを目がけ、悪鬼のようなすさまじい形相のキヨミが跳ねる。

 シノブは、横に転がってかわす。

 かわした地面に、キヨミが激突する。落下の衝撃とサイコキネシスの相乗作用で、巨大なクレーターがうがたれる。

 立ちあがりつつ、シノブは銃の引き金を数回引く。だが、発射されたのは一発。

「弾ぎれ!?」

 最後の一発は、キヨミの頬をかすめ、クレーターとなった地面にあたる。

 シノブに向けて、跳躍するキヨミ。

 シノブは、空になった銃をキヨミに投げつけるが、キヨミはかわそうともせず、サイコキネシスで跳ね飛ばす。

 横に飛んでかわすシノブ。

 かわすと同時にまたそこにもクレーターが形作られる。

 シノブは転がって、当たりをみまわす。

 数メートル先。あった。

 さっき捨てた、トビタの拳銃。

 体を起こし、銃へむかって走りだした瞬間、体に衝撃が走る。

 キヨミがジャンプしつつ、サイコキネシスを放ってきた。

 超能力をもろに全身に受け、ふっとばされるシノブ。

 立ちあがるシノブの目の前に着地するキヨミ。

 間髪入れず、サイコキネシスのパンチを腹部に叩きつける。

 さらにふっとばされるシノブの体。

 キヨミは、地面に這いつくばるシノブを、肩で息をして、ナイフのような目つきでねめつける。

「まだ……、まだ死ぬんじゃあない、このメスブタ!」

 キヨミの怒声がとどろく。

 シノブは立ちあがりつつ、銃をさがす。キヨミの向こう。ずいぶん遠くなってしまった。

 だが、銃のもとまでたどり着かなくては、勝機はまったくない。

「なぶり殺しにしてやるぅっ!」

 シノブは、キヨミを鋭くにらむ。そのすべてを切り裂くような瞳が煌めく。

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