12 星芒 (6)

 シノブは、計画どおり、ヘリポートのうえに着地した。いや、着地というより、激突したと言ったほうが的確だろう。ポートの端にぶつかり、十メートルほど数回跳ねて、とまった。

 しかも、左腕をポートの端にぶつけてしまい、上腕の骨が折れ、妙な方向に曲がってしまっている。

 トビタのP2000を床に落とす。だが、手にしていたとしても、この腕ではもう使えないだろう。

「ぐ、ううう」

 あまりの激痛で、声もでない。覚醒も解けてしまっている。

 地面につっぷしてもがき続け、痛みから吐き気がこみあげ、また吐いた。だが、さきほど胃の内容物は出しきっていて、もう、胃液しかでてこない。

 シノブは、右手で曲がった左腕をつかむと、力いっぱいひっぱる。

「う、ああああっ」

 うめきながら、二の腕の骨を、強引にもとの位置にもどす。

「ああ、あああっ」

 痛みが多少やわらいだ。ほんの多少だけ……。

 シノブは、よろよろと立ちあがり、下にいる双子の様子をうかがうため、ヘリポートの端に向かおうとする。

 右足首に激痛が走る。

「ああっ」

 シノブは悲鳴をあげる。

 骨が折れてはいないようだが、ヒビぐらいは入っているかもしれない。

 足をひきずって、歩く。

 日が沈み、急速に気温が低下し、しかも、風が吹きはじめた。風は強く、肌に突き刺さるような冷たさで、立っている脚に力を入れていないと、吹き飛ばされて、暗黒の海に没した地上へと突き落とされそうだった。

 ヘリポートの中心に描かれたHの文字のうえには、ヘリコプターが一機、駐機したままになっていた。

 ――まさか、あれに乗って逃げるなんてことは、できないな。

 苦笑しつつ、ヘリポートの端まで来る。

 下を見ると、双子がこちらを見ていて、目が合った。


 キヨミは、ヘリポートの端に立つ、シノブを見やった。

 このまま、イサミを守りながら、彼女のもとに向かわなくてはいけない。

 だが、シノブは、心を読まれまいとして、距離をとって攻撃をしてくるだろう。

 相手の心が読めない状態では、イサミを守りつつ前進するのは、非常に困難だった。とくに階段がやっかいだ。あそこを進めば、格好の的になる。イサミを守りつつ登っていけるものではなかった。

(イサミちゃん)

(うん)

(いい、よく聞いて。これからお姉ちゃんが彼女のところに、先に乗りこむわ。あなたは後からヘリポートに向って)

(でも、姉さんひとりじゃ危険だよ。いっしょに行こう)

(大丈夫。あなたが来るまでの間くらい、お姉ちゃんはひとりでも戦えるわ)

(ダメだよ。あの子の心が読めないと)

(イサミちゃん、勇気をだして)とキヨミはわがままをいう子供を諭すような口調で、話す。(もうすぐなの。あとちょっとで終わるの。これが終われば、私たちふたり、誰にとがめられることもなく、気兼ねすることもなく、ずっと愛しつづけられるのよ)

(うん)

(そうよ、お姉ちゃんは、もう、あなただけのものよ)

 キヨミはサイコキネシスで砂利を無数に持ち上げ、周囲にバリアーのように浮かべると、そのまま、走りだす。

 ――そう、私にはあなただけしかいないの。心の底から愛しあえるのは、あなただけなの。

 キヨミはゆがんだ愛情を胸の最奥に秘め、走る。


 シノブは、キヨミに向けて、銃を数発撃った。

 だが、弾丸は、ことごとく砂利に当たってはじかれる。

 ちっ、と舌打ちした、刹那――。

 キヨミが、みずからをサイコキネシスで飛ばし、ヘリポートまで跳躍してきた。

 まだ空中にいるキヨミに照準をあわせ、銃をうつ。

 だが、やはり砂利ではばまれた。だけでなく、カウンターのように砂利が十数個飛んでくる。

 それを、すべて、シノブは体で受けとめてしまった。

 悲痛な叫びをあげるシノブ。

 左腕の骨折した場所に当たったのが、一番強烈な痛みだった。

 ヘリポート上に着地するキヨミ。さらに砂利を飛ばす。シノブは体をひねってかわす。

 キヨミは、じょじょに体を横に動かしつつ、シノブを威嚇するように攻撃を続ける。

 シノブもかわしつつ、隙をみて銃を撃つ。

 シノブの銃は、もう弾がどれほど残っているか、わからない。

 キヨミは、砂利を使いはたしてしまえば、自分の体を守る盾を失うため、思い切った攻撃ができないでいた。

 キヨミの歩みがとまる。

 そこは、シノブと階段のちょうど真ん中で、

 ――そうか。

 とシノブは推察した。

 もうすぐ弟が階段をのぼってくる。それまで、キヨミは防御に徹するつもりなのだ。

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