11 星芒 (5)

 庭園の照明の光が双子を影絵のように映し出す。

 ともかく、ふたりとの距離をとりつづけなくてはいけない。

 シノブは思考回路をフル回転させる。

 今の距離なら、心は読まれていないはずだ。だからこれ以上近づかれてはいけない。

 だが、どこへ逃げる?

 ビルのなかへ入っても、セキュリティーシステムが至る所に配置されているし、ヘリポートに登っている暇はない。

 シノブの先には、ヘリポートへと上がる、鉄製の階段があったが、それを登るには、危険が大きすぎる。

 登っている間に接近され、攻撃される。先ほどまでのように、パイプやレンガを飛ばしてくるくらいならいいが、階段自体を破壊されたり、最悪、シノブの体が屋上の端から突き飛ばされることも、充分ありえるのだ。

 立ちどまっていたキヨミが、両手を動かす。

 今度は、庭園に敷きつめられていた砂利を数十個、いや、もっと大量に、サイコキネシスで空中に持ち上げる。

 キヨミが腕を振る。

 大量の砂利が射出される。

 すこし、ヘリポートの階段よりに攻撃してきた。シノブは、自然、階段の反対方向へ逃れざるをえなくなる。

 砂利は、散弾のように飛んできて、よけたシノブのあとに、ガラス張りのビルへの出入り口に降りつける。

 ガラスは、ちょっとヒビが入ったり、欠けたりするくらいで、割れるということがなかった。

 防弾ガラスのように、頑丈なつくりになっているようだ。

 もし、シノブがセキュリティーを突破しようとガラスを割ろうとして、銃で撃っていたら、おそらく弾丸は跳ね返されて、自分の撃った弾丸で死んでいたかもしれない。

 シノブは、キヨミを見つめる。

 キヨミの周りには大量の砂利が浮き、彼女を防御するように、そしていつでも攻撃できるように、衛星のように漂っている。

 ひとつ、方法を思いついた。自分の体がもつかどうかもわからない、危険すぎる、賭けのような方法だった。だが、手段を選んでいる暇はなさそうだ。

 シノブは銃のグリップをつかむ両手に力をいれる。

 シノブの目が煌めく。

 キヨミに向って、走りだした。


 キヨミはぎょっとした。

 シノブがこちらに向かって走ってくるなど、まったく予期していなかった。完全に意表をつかれた。

 しかも、あの目。

 ――覚醒モードに入った。

 面倒なことになった、とキヨミは内心焦りを感じた。

 覚醒モードに変異できるのは、特定の強化兵パワードソルジャーだけだったが、覚醒すると、思考でなくて、勘で動きはじめる。

 これがやっかいなのは、イサミの能力で相手の心とリンクしても、ほとんど無心の状態になっているため、

 ――心が読めない……。

 のである。

 キヨミは慌てて三十個ほどの砂利を射出する。

 シノブは、石つぶてをかわし、腕ではじき、スピードを落とさず、こちらに向かって疾走してくる。

(イサミちゃん、隠れてっ)

 キヨミの心の声に反応し、イサミは花壇の後ろに身を寄せる。

 シノブは、目前、すでに五メートル。両手の銃を撃つ。

 キヨミは、砂利でかろうじて弾丸をはじく。残りの空中の砂利をすべてシノブにぶつける。

 だが、距離が短い。

 勢いがついていない砂利たちは、シノブに命中しても、たいしたダメージをあたえていない。

 シノブがジャンプして、銃を撃ちながら、体ごと突撃してくる。しかし、不安定な状態での射撃ではまったく弾丸はそれていく。

「このっ!」

 叫んでキヨミは、空中から迫ってくるシノブに向けてサイコキネシスを放つ。

 シノブはこの攻撃を予期していたように、手足をちぢめていた。

 ――やられたっ!

 キヨミはとっさに後悔した。

 サイコキネシスを食らったシノブは、上空へとふっとばされ、そして重力にしたがって、弧を描いて落ちていく。

 そのゆくさきは、ヘリポート。

 完全に距離をとられた。

 近づこうにも、ここからヘリポートの階段までは、身を隠すものがなにもない。射程距離外なので、イサミのテレパシーで心を読むこともできない。

 キヨミは、ついさっきまで、完全に彼女を追いつめていたと喜んでいたのに、今では反対に追いつめられたような気分になっていた。

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