7 勁風 (3)
エクリプスたちが、一斉にトビタに反応する。
「いまっ!」
トビタの声に背中をつきとばされるように、シノブは飛び出す。
後ろで聞こえる発砲音。シノブは車の陰に飛びこむ。
ふりかえる。
トビタは生きている。台座に背をぴったりとくっつけて、ウインクをして、親指をたてる。
――バカヤロウ。
シノブは口の中でトビタを
と、さっき電柱の陰に移動した男の背中がみえた。
――やれる。
シノブは反射的にその男に銃口を向ける。
「バカっ!」
トビタの怒声とともに、まったく予期せぬ方向からシノブに向けて弾丸が飛んできた。
さいわい弾丸ははずれたが、シノブは体勢をくずし、車から上半身をさらしてしまった。
しまった、とシノブが思う間もない。電柱の陰にいた男が銃を向ける。引き金にかかった指が動く。
瞬間――。
トビタが大胆にも台座から飛び出し、その男を撃つ。
弾は男に命中し、ばたりと倒れた。男の放った弾丸は天空に消えていった。
だが、同時に、各所から数丁の銃口が火を噴いた。
トビタは、数発の銃弾を体に受け、その場に倒れ込む。
「トビタっ!」
シノブは反射的に車の陰から飛び出し。銃をやみくもに撃ちながら、ふたたびオブジェの台座にもどる。そして、そこから腕を伸ばして、トビタのスーツのスソをつかむと、こちらに引っ張った。
トビタは、右肩、右腰、左腿を撃たれていた。肩と腿の弾は貫通している。幸運にも内臓には命中していないようだが、どれも出血がひどい。
「バカ。お前はほんとにバカだな」トビタは台座にもたれてすわり、荒い息をして、言う。「今の隙に、なんで逃げなかった。なんで戻ってきた。撃たれ損じゃん、俺」
シノブはトビタと並んですわり、
「うるせえよ。私は私の思うとおりにしただけだ」
言って、両手で顔をおおった。泣きそうになる自分を抑え、気持ちをふるいたたせるため、おおった手のなかで、ゆっくり深呼吸をする。
「待ってろ」手のひらでさえぎられ、くぐもった声で、シノブは言う。「待ってろ。すぐにカタをつけてくる」
「バカ、よせ」
トビタの制止を無視し、シノブは手を顔から放し、立ちあがる。
シノブは男たちのほうに振り向き、目を見ひらいた。
瞳が一瞬
トビタはその目を見て、悪寒が走った。
「おまえ、どうしちまったんだ……」
あまりに無機質な
シノブは自然に、こんな状況にもかかわらず、平然としたふうに、台座の右横から歩き出す。
広場の東にある駐車場から銃が撃たれる。
シノブはくるりとコマのように回転して弾丸をかわすと同時に銃を撃つ。
「ひとり」
駐車場の車の後ろにいた男の喉元に命中する。
さらに街路樹から銃声。
シノブは左に側転して回避し、撃つ。
「ふたりめ」
男が、倒れる。
T字路西側の家の角と電柱からふたりが身を乗り出す。
シノブの銃から二回マズルフラッシュが輝く。ふたりほぼ同時に沈む。
左後ろから照準があわせられる。さっきトビタに撃たれた男が生きていた。シノブはそちらを振り向きもせず、背中に銃をまわして撃つ。命中。
「五人」
シノブがつぶやく。
直後に走りだす。広場を横切り、西にある街路樹の陰に走り、そこから、道の反対にある街路樹にいた男を撃つ。
「六」
同時に各所から三人が、出てくる。男たちが引き金を引くよりはやく、シノブの銃からほとばしった弾丸が彼らを貫く。
「九」
シノブはそのまま進んで、道路の真ん中にでる。
左斜め前の家の壁ぞいにいた男が、ライフルを撃つ。同時にシノブも撃つ。敵の弾は
「十人」
東側の、電柱と街路樹の陰で銃が動く。
シノブは引き金を二回引く。
「十二」
「バカな……」
ビルの屋上で、最後に残ったひとりが驚愕する。
「たった、たったひとりに、われらが……、一分もかからず……」
エクリプスの背筋に悪寒が走る。
「あの女、間違いない、あの女は
男の十メートル後方にある、扉がきしむ。振り向きざま、銃を向ける。まわした頭の側面に弾丸がめりこむ。
「十三人」
シノブは、最後の男が倒れるのを見とどけもせず、立ち去った。
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