りんご飴
反省を活かし、唐揚げ棒を購入した。
犀川は……。
「……」
りんご飴に、釘付けになっている。
「……欲しいのか?」
「別に?」
まるで、小学生の女の子みたいに、目をキラキラさせて……。
意外と子供っぽいところあるんだよな。犀川。
「正直、バカにしてた。こんなに美味しそうなんだね」
「犀川って、甘いもの好きだよな……。プリンに限らず」
お菓子とかも、よく食べてるし。
俺の発言が気に食わなかったのか、犀川が唇を尖らせ、抗議の視線を向けてきた。
「別に、特別好きってわけじゃないから」
なんでそんな、見え見えの嘘を……。
「よほど好きじゃなかったら、りんご飴に夢中にならないだろ……」
「夢中になってない。いらないから」
「意地張るなって……。すいません。りんご飴、一つください」
なかなか言い出せない犀川に代わって、注文した。
受け取ったりんご飴を、犀川に手渡す。
渋々と言った様子で、手に取った。
「……ありがとう」
ボソッと、呟くように……。だったけど。
きちんとお礼が言えるのは、偉いと思う。
「念願のりんご飴だな」
「むかつく……」
「別に、りんご飴くらい、大人だって食べてるだろ? なんでそんなに、恥ずかしがってるんだよ」
「……恥ずかしいとかじゃないけど。やっぱり、なんか食べてるところ、見られるのは、あんまり好きじゃない」
「あんなにプリン食べてたのに」
「プリンは別」
犀川の中で、相当プリンは神格化されているみたいだ。
ゆっくりと、りんご飴を舐め始めている。
「美味しい……」
「そうだろ?」
まぁ、俺は食べたことないけどな。
唐揚げ棒を食べ終わったら、俺も買おうかな……。
そう思っていたら。
犀川が、りんご飴を、こちらに向けてきた。
「どうした?」
「……」
「犀川?」
「……焼きそばの、お礼」
「……えっ」
……マジか?
からかってるわけじゃないよな。
犀川の表情は、至って真剣だ。
頬が赤くなっているし、俯き加減。
「い、いやでも。これはちょっと、ハードルが高いっていうか……。もちろん気持ちは嬉しいし、あの」
「意気地なし。それでよく、夏祭りに誘おうと思ったね」
溜息をつきながら、犀川がりんご飴を引っ込めた。
そりゃ……。無理だろ。
異性と付き合ったことなんて、一回も無い俺が、いきなりりんご飴で間接キスは……。
「男子高校生なんて、もっとガツガツしてるもんだと思ってた」
「普通はな……。俺、陰キャだし」
「でも、性的な欲望は、そういう人の方が、強いって聞いたことあるけど」
「どこ情報だよそれ……」
普通に、イケイケな陽キャの方が、盛ってると思うけどな……。どうなんだろう。
「我慢してるの? 武藤くん」
「いや……。そういうわけじゃないよ」
「だって、なんか、紳士っぽく務めようとしすぎてない? キモいよ?」
「じゃあどうすればいいんだよ……。おっぱいぼいーん! とか言って、胸もんだらいいのか?」
「そんなことしたら、警察呼ぶから」
「ほらみろ……」
「極端でしょ。もっと段階踏んでよ」
「段階って……。なぁ」
そもそも。
犀川曰く、今の俺たちって、付き合ってないらしいし。
そっちがそうやって言う以上は、俺だって、色々考えて行動する必要があるわけで。
「別に俺は、犀川と夏祭りに来られたっていうだけで、もう満足なんだよな……」
「……きもい」
きもいのか……。
よくわからないな。女子の気持ちは。
女子と言うか、犀川だけかもしれないけど。
だけど、やっぱりそういう、ちょっと冷たいくらいの犀川が、俺は好きで。
「……なに?」
りんご飴を舐める犀川に、うっかり見惚れてしまっていた。
「いや、別に? 楽しいなぁって思ってるだけだ」
「楽しいっていうか、美味しいって感じだけど」
「……それでもいいよ」
「うん」
このくらいの関係が……。
俺たちにとっては、ちょうどいいくらいだと思う。
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