頼れる先輩のアシスト

「モ、モモ先輩……」

「ふっふっふ……。実はね……。さっきのシーンは、バッチリカメラに収めさせていただきました!」


そう言いながら、スマホの画面を見せてくる。

……はっきりと、俺が犀川の口に、焼きそばを運んでいる瞬間が、写されていた。


「消してください!!!」


顔を真っ赤にした犀川が、モモ先輩から、スマホを奪い取ろうとする。

しかし、難なく躱されてしまった。


「おっとっと。ダメだよ犀川ちゃん。これは、二人の愛の証……。消してしまうだなんて、とんでもない!!」

「ふさけないでください……」

「そ、そんな怖い目で睨まないでよ……」

「……もう」


呆れたように、犀川が座った。


「別に、誰かに見せるとか、しないからさ……。私が個人的に、ニヤニヤしながら、眺めるだけ!」

「気持ち悪いです……」

「ちょっと歩夢。君の彼女、冷たくない?」

「あ、あはは……」

「百瀬先輩。彼女じゃないですから。私たち、付き合ってないので」

「……付き合ってない男に、あ~んさせたの?」

「……っ」


唇をプルプルと震わせながら、犀川がモモ先輩を睨みつけている。


「恥ずかしい? そうだよね~。いいなぁ初々しくて。私にも、そういう時代があったなぁ~」


懐かしむように、目を閉じるモモ先輩。

……俺たち、一歳しか、違わないのに。


「あぁいたいた……。全く、百瀬さん。勝手に先へ行かないでください」

「あれ? 文月先生も来てたんですか……」

「学校で説明があったでしょう? 教師陣はパトロールです。というか、私、武藤くんに、直接言ったような……」


そう言えば、そうだったかもしれない。


「……いいですか。不純な行為に走った場合、容赦なくボコボコにしてあげますからね」

「わかってますよ……」

「あ~フミちゃん。この二人、さっきね?」

「ちょっと! 百瀬先輩!」


犀川が、顔を真っ赤にして怒った。


それを見て、モモ先輩が、愉快そうに笑っている。


「もしかして、もうすでに、イチャイチャパラダイスですか? 二人は」

「イチャイチャパラダイスって……」

「初犯ですから、見逃してあげましょう。……次、犯行を目撃したら、容赦しません」


犯行とまで言われてしまった。

……あ~んに関しては、俺から頼んだわけじゃないんだけどなぁ。


「しょうがない。今回は、その焼きそばで、勘弁してあげるよ」


モモ先輩が、俺の焼きそばを奪った。

まだ、一口も食べてないんだけどな……。


「こんなの買ったら、歩きながら食べられないでしょ? 考えてよ」

「……モモ先輩」


いや……。

奪ったんじゃなくて、モモ先輩なりの、アシストだったんだ。


俺はもう一度、やり直す権利を得た。


「じゃあフミちゃん。私たちは、あっちを見て回ろうね」

「あっちですか?」

「そうそう。意外と夏祭りって、そこから少し離れた場所で、いかがわしい行為に及ぶことが多いんだよね……」

「……それは見過ごせません。行きましょう」


鼻息を荒くした文月先生が、去って行った。

その後を追いかけるようにして、モモ先輩も、行ってしまったが。


その前に、こちらに向けて、小さくウインクをした。


……ありがとう。モモ先輩。

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