初めての喧嘩

経験不足

夏祭りは、来週の日曜日。

今日は、木曜日だから……。

あと、残された日数は、今日を含めて、三日だけ。


もちろん、夏祭り当日に、説得することもできるかもしれないが。

現実的ではないと思う。


「暗い暗い!」

「痛っ!」


オカルト研究部の部室で、色々考えこんでいたら。

モモ先輩に、いきなり頭を叩かれた。


「何するんですか……」

「そんな暗い顔でさ。犀川ちゃんが、許してくれると思う?」

「そうですけど……。だからって、へらへらしてるわけにはいかないでしょう?」

「真ん中の顔すればいいんだよ!」

「真ん中の顔?」

「こ~んな感じ」


モモ先輩が、変顔を披露した。


「……なんですかそれ」

「ちょいちょい。マジレス? 歩夢、いつもなら、めちゃくちゃ笑ってくれるのに!」

「いやいや。そのクオリティのボケで、笑うことはないですよ。元から」

「ねぇフミちゃ~ん。なんか、歩夢がつまんなくなっちゃってるよ~!」

「知りません……」


モモ先輩に抱き着かれた文月先生が、うっとうしそうに、表情を歪ませている。


「で、武藤くん。経過はどうなんですか。もうあれから、しばらく経ちますが」

「ダメですね。毎日放課後、家に行ってますけど……」


犀川のお母さんに、家に入れてもらって。

犀川の部屋の前で、色々謝罪したり、反省点を述べたり、割と理屈で……。説明しているつもりなんだけど。


返事は全く無い。

俺の話を、聞いてくれているのかどうかすら、わからなくて……。


「ほらほらまた暗い顔! ダメだって歩夢! スマイルスマイル!」

「無理ですよ……」

「……もう。毎日毎日、好きな女の子の家に入れてるって、幸せだと思わなきゃ! ね?」

「ポジティブですね……」


確かに、その通りではあるかもしれないけど。


「武藤くん。具体的には、どんな感じで、犀川さんに話しかけてるんですか?」

「えっと……。俺のここがダメだったなぁとか、ここを改善するつもりだよ。とか……」

「……うわぁ」


文月先生と、モモ先輩が、顔を見合わせ、同時にため息をついた。


「な、なんですか?」

「一番ダメなタイプ」

「童貞丸出しですよ。武藤くん」

「え、えぇ?」


めちゃくちゃ酷評なんですけど?


「男の子って、どうしてこうなんだろうね……。すぐさ、冷静に物事を解決しようとする」

「だって……。犀川は頭良いし……。その方が、納得してくれるかなって」

「そこがもうズレてるよ。犀川ちゃんは別に、納得したいわけじゃないもん」

「え?」

「良い? 歩夢。どんな正当な理由があったって、犀川ちゃんは、歩夢のしたこと、許すつもりは無いと思う」

「そんな……」

「それをね? なんとか許してもらおうと、だらだら理屈を並べられたって……。むしろどんどん萎えていくだけに決まってるじゃん!」


そういうことだったのか。

これもまた、経験不足……。


「えっと、それで……。どうしたらいいんですか? 俺は」

「考えれば、わかることじゃん」

「……わからないです」

「もう……。しょうがないなぁ。今回だけだよ?」


俺は、モモ先輩から……。アドバイスを受け取った。


「……本当に、それで良いんですか?」

「いけるよね? フミちゃん」

「私は嫌ですけどね。そんな男」

「まぁフミちゃんはこう言ってるけど、気にしなくていいよ。この人、拗らせちゃってるから。色々」

「百瀬さん?」

「ほら行った行った! 頑張れ少年!」


モモ先輩に背中を押され……。部室を追い出されてしまった。


……本当に、こんな方法で、いけるのだろうか。

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