後退

「やってくれましたね……。武藤くん」


週明け、月曜日。

犀川は……。

学校に来なかった。


「犀川さんの症状が、悪化してしまったそうです。とても登校なんてできる状況じゃありません」

「……すいません」

「ちょっとフミちゃん……。事情、聞いてるでしょ? 歩夢は、犀川ちゃんのために、一生懸命バイトしてたんだって」


モモ先輩が、フォローしてくれた。


「ごめんね? 歩夢。私があんなアドバイスしたからさ……」

「いや、モモ先輩のせいじゃないですよ。俺が……。色々と、経験不足だったから、ダメだったんです」

「先輩……。柚も、調子乗って、ごめんなさい」

「笹倉まで……。みんな、悪いのは俺なんだ。謝るのはやめてくれ」


重苦しい雰囲気が、オカルト研究部の部室を支配している。

夏祭りなんて……。

とてもじゃないけど、誘えるような状況では、なくなってしまった。


☆ ☆ ☆


「……武藤」

「ん?」


教室に入ってすぐ、九条に声をかけられた。

そして、人のいない場所まで連れて行かれた。


「ごめん。武藤。直美のこと……」

「おいおい九条まで……。九条は何も悪くないだろ?」

「そうかもだけどさ……。私、直美と友達なんだから、もっと色々考慮するべきだったかなって」


九条が、悔しそうに唇を噛んでいる。


「直美さ、あんまり、人とわちゃわちゃするのとか、嫌いだと思ったから……。バイトの状況をいちいち伝えるのも、返って気分損ねるかもしれないって、思って、私、全然連絡取ってなかったの」

「その考えが、正しいと思うよ」


参考書開いて。

話しかけるなオーラ全開で……。


直接でも、あんな風なんだから、間接的な連絡なんて、無視される可能性の方が高い。

それでも、九条であれば、電話をかければ、反応があったかもしれないが。

それが、犀川にとって負担になるであろうことを、九条は理解してたわけで……。


「直美ってさ、いつもは男子に突っかかって、怖いもの知らずって感じだけど……。意外と、脆いところあるんだよ」

「そうかもな……」

「だから、武藤。あんたがなんとかしなきゃ」

「……え?」

「今、直美に一番近いのは……。武藤だから」


犀川に、一番近い。か……。


魔物症候群の症状を考えれば、物理的な距離って、遠い方なんだけど。


……一度は、信頼を得たはずだった。

それは間違いない。


「ありがとう。俺、頑張るよ」

「うん。あ、バイトはさ……。前みたいな日数で来なくても良いって、お父さんも言ってたから。……直美との関係優先。ね?」

「助かるよ。こんな状況、早く解決して……。犀川も、ジョーカーに連れてくるから」

「……うん。楽しみにしてる」

「おう」

「教室、戻ろうか」


こんなセリフ、言ってしまったが。

何一つ、案なんて無くて。



その日から、毎日犀川の家に行って、説得しようと試みたけど。

まったく部屋から、出てくることは無く。


――とうとう、夏祭りまで、残り一週間を切ってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る