強引な突破

「いらっしゃい。武藤くん」


いつも通り、犀川のお母さんが出迎えてくれた。


「こんにちは……。すいません。今日もちょっと、犀川と話します」

「えぇ……。ごめんなさいね? 毎日来てもらっちゃって」

「いえいえ……」

「これ、あの子の好きなお菓子なの。……効果があるか、わからないけど、持って行ってあげてくれるかしら」

「はい。ありがとうございます」


犀川のお母さんから、お菓子を受け取り。

……いざ、二階へ。


SUGUMIと書かれた看板のかけてあるドアを……。ノックした。


「……犀川。俺だ」


いつものように、返事はない。


「その……。毎日同じこと言うけどさ。俺、ちゃんと反省してるんだよ」


ドアに向かって、話し続ける。


「犀川のこと、放置しちゃってさ……。もっと、気をつかうべきだったなって。バイトとか、やりすぎだったよなって」


プレゼントを贈るなら、豪華な物を……。

そんな考えで、ぎゅうぎゅうにシフトを詰め込んで。


冷静に考えれば、学生のプレゼントなんて。数千円でもよかった。

それなら、一週間程度のバイトでも、十分稼げてしまう。


「犀川は、そんなに主張しないからさ……。俺がちゃんと、気が付かないとダメだったんだ」


反応、無し。


こうやって、反省を述べるだけじゃ、ダメって言ってたよな。

……ちょっと、恥ずかしいけど。


モモ先輩が言ってたことを、試してみるか……。


「……犀川」


俺は、深呼吸をした。

そして――。


「俺、犀川のこと、好きなんだよ」


何とか。

噛まずに言うことができた。


やはり、反応は無い。


「犀川、聞こえてるかな。犀川のことが、好きなんだ」


直接、何度も伝えようとした。

その度に、止められてきた。


だけど……。

このドアを開けない限り、絶対に俺を阻止することはできない。


『理屈じゃダメ。百パーセントの、本能むき出しの愛情を見せないと』


モモ先輩……。

俺、頑張りますから。


「俺、言ったよな。初めて犀川を見たときのこと。花壇で、花に微笑みかけててさ……。絶対この子と付き合いたいって思ってた。でも、俺ってほら、陰キャだし、犀川は堅物だし……。どうやっても、コミュニケーションなんて、取れなくて」


少しだけ、物音が聞こえた気がした。

それでも、声は返ってこない。


「その後、奇跡的に同じクラスになれた。少しでも、犀川と話したいと思って、やりたくもないクラス委員長に立候補して……。だけどやっぱり、会話なんてあんまり発生しなくてさ」


だけど。

犀川と同じ役職というだけで。

なんだか、関係が進んだ気がして。


「犀川に怒ってもらいたくて、わざとエロい本を読んだりさ……。俺なりに、真剣だったんだよ。犀川と話したくて。だから……。今こうして、犀川とたくさん会話する機会が増えて、俺も、どうしたらいいのか、わかってないところもあって」


どのくらい、会話すべきなんだろうとか。

どのくらい、好意は伝えてもいいのかとか。


恋愛なんて、したことないから……。

そういう、初歩的なことすら、わからなくて。

だから、間違えたんだと思う。


「聞こえてるかな。犀川」


やっぱり、返事はないけど。


『返事するまで、好きって言い続ければいいじゃん!』


モモ先輩のアドバイス。

実行してみようと思う。


「犀川が、このドアを開けてくれるまで……。好きって言い続けるから」


やるぞ……。

恥ずかしいけど。


周りに誰もいないし。


「犀川。好きだ」


反応は無い。

そもそも、聞こえていない可能性もある。


もっと、大きな声を出そう。


「犀川! 聞こえてるか! 俺はお前のことが好きだ!」


……もっとか?


「犀川!!!! 好きだ!!!!」


まるで、選手宣誓かってくらいの、大声を出したところ。


ゆっくりと、ドアが開いた。


布団を被り……。サングラスをつけ、マスク姿で。

その完全防備状態に、思わず俺は、笑ってしまった。


「……久しぶりだな。犀川。風邪か?」

「……バカなんじゃないの?」


犀川は、呆れたように呟いた。

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