イベント当日

「きゃあ~! 天使可愛い~!」

「ちょっと! 文月先生めちゃくちゃ可愛いじゃん! 撮っちゃお!」

「百瀬~! もっとポーズくれよ~!」


……大繁盛。


ほとんど、ウチの学校の生徒だけど、ちょいちょい近所の人も来てくれているみたいだ。

コーヒーを一杯でも頼めば、店員と記念撮影オッケー!

……なんて、まるでメイド喫茶みたいだけど。


「いやぁ忙しいなぁ」

「あっ、武三さん。お疲れ様です」

「あぁお疲れ様。コーヒー飲むかい?」

「ありがとうございます」


ちょうど裏で休憩していたところ、武三さんが、一息つきにやってきた。


「充実してるよ……。この店を始めてから、一番お客さんが来てくれているかもしれない」

「あはは……。どうなるかと思いましたけど、好評みたいで、良かったです」

「武藤くんの魔王のコスプレ、大人気らしいじゃないか」

「いやいや……。俺なんて、おまけみたいなもんですよ」


女性陣の人気に比べれば……。雲泥の差だ。


特に、文月先生あたりは、普段のクールさと、撮影される時、照れてしまう可愛さとのギャップが大人気で、行列ができるほどである。


……参加してくれたこと自体が、意外だったけど、多分、モモ先輩が、うまく言い包めたんだろうなぁ。


「みんなに甘えていてはいけないけどね……。卒業した途端。店が潰れました~! なんてことになったら、笑われてしまうから」

「マスターの腕があれば、大丈夫ですよ。どんどん広めて、ちゃんとこの街の人に、良さがわかってもらえるように、俺も頑張りますから」

「武藤くん……。ありがとう」

「はい! じゃあ……。俺はそろそろ、ホールに戻ります!」

「あぁ。無理しないでね」


ホールに戻ると、早速撮影を頼まれた。


「あ~もっと! もっとくっついて!」


笹倉と一緒に、ポーズを取ってほしいと言われたのだが……。


「くっつくって……」


もうすでに、結構な距離感だ。


「先輩! ほら!」

「わっ、おい……」


笹倉が、俺に飛びついてきた。

まるで、抱きしめられるみたいなポーズになってしまっている。


「これこれ! 魔王様! 堕天使ちゃんの頭を撫でて!」

「えぇ……?」

「せんぱ……。魔王様! 撫でてください!」


ノリノリだな。笹倉……。

俺は仕方なく、笹倉の頭を撫でた。

そして、容赦なくシャッター音が鳴り響く。


これは照れる……。


「も、もういいですかね」

「オッケー! ありがとう!」

「では、次の方~!」


笹倉が、そう呼び掛けたところで。

誰かに肩を叩かれた。


九条だった。


「どうした? 九条」

「マヨネーズが切れちゃった……。パンに使うんだけど。買ってきてくれない? 厨房も手が離せなくて」

「あぁ。わかった。すぐに行く。すまん笹倉! ちょっと外すな!」

「わかりました~!」


俺は急いで、更衣室に向かい、服を着替えた。

そして、駆け足でスーパーに――。


向かおうとしたら。


そこに、犀川がいた。


「さ、犀川。来てくれたのか?」

「楽しそうだね」

「そうなんだよ。大繁盛でさ……。みんないるから、中に」

「こんなところに……。私を放り込もうとしてたんだ」

「……え?」


距離が離れているから、気が付かなかった。


犀川は……。


泣いている。

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