嬉波の懸念

「と、言うわけだからさ。ごめんな? 嬉波」


土日、今まで通り、一緒にゲームをやってやることができないことを伝えると……。


『大好きなあの人のためだもんね。お兄ちゃんの恋を応援するよ!』


なんて、嬉しいコメントが返ってきた。


「ありがとう嬉波。良い妹を持ったよ」


『でもね? 一つ気になることがあって……』


「どうした?」


『お兄ちゃんは、未来のガールフレンドに、サプライズでプレゼントを贈るために、一生懸命、バイトするんだよね?』


「うん。そうだな」


未来のガールフレンドって……。

なかなか昭和っぽい表現だな。


『だけどお兄ちゃん。そのバイトに、一生懸命になっちゃうせいで、未来のガールフレンドとの時間が減りすぎるのは、本末転倒な気がするよ?』


なるほど……。

確かに、一理あるな。


今日だって、もしバイトがなかったら。

もう少し、オカルト研究部の部室で、犀川とのトークを引っ張っていたかもしれない。

とは言っても、どうせ向こうから、「勉強に集中したいから、喋りかけてこないで」とか言われて、早々に切り上げられてしまいそうではあるが。


『バイトしてる理由は、なんて言ってあるの?』


「あ~。一応、例の天使になった後輩の、経過を見るためって伝えてあるけど」


『そうなんだ……』


メモ用紙に、……が何個も書かれていく。

これは、嬉波が考え中であることを示すサインだ。


そうでないと、会話が終わったと思って、俺が部屋に戻ってしまう可能性がある。


『三週間後だよね。夏祭り。それまでお兄ちゃんは、あんまり未来のガールフレンドとは、関係を深めるようなことを、しないつもりなの?』


「いや、学校で話す時は、なんとか頑張ってみるけど……。なかなか難しいところがあるな」


『それでいきなり、サプライズ~! って言われても、私だったら困惑しちゃうけどなぁ』


「なるほど……」


『でも、お兄ちゃん次第だけどね。私は責任取りませ~ん!』


「おいおい……」


『頑張ってね。私はお風呂に入ってきます!』


メモ用紙が破られ、ゴミ箱に捨てられた。


犀川との、関係性か……。

でも、あいつはなんだろう。


俺としばらく話さなかったところで、特に評価が変わることなんて、なさそうというか。

別に、俺のこと好きじゃないだろうしな……。


ただの魔物症候群に詳しい、変態だと思ってるはずだ。


むしろ、俺が来ない分……。

勉強に集中できて、ラッキーと思ってるかもしれない。


それならそれで、むしろ関係性が悪化することもなさそうだし、好都合とすら言えるかもしれない。


だけど、一応気にはしておこう。

本当は……。喫茶店で、働きたいとか、思ってるかもしれないし。


……犀川のエプロン姿か。

いいな。


俺は緩みかけた口元を、結び直し、部屋に戻った。

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