素直になれない

放課後、オカルト研究部の部室を訪れた。


「あれ? 犀川だけか?」

「そうだけど」

「文月先生と、モモ先輩は?」

「文月先生は職員会議。モモ先輩はなんか仕事だって」

「そうか……」


二人には、ぜひ他の意見も訊きたかったのだが……。


「そうだ犀川」

「行かない」

「ちょっ……。まだ何も言ってないだろ?」

「どうせ、喫茶店に行こうって言うんでしょ? 嫌だ。気を使うし。明美の家なんでしょ?」


……聞いてたのか。


「そうじゃなくてだな……。別に、無理に来てくれとは言わないよ。喫茶店を流行らせるためには、どうしたらいいか……。その案を訊きたかったんだ」

「行ったことない」


意外だな……。

堅物委員長と、喫茶店の相性は、悪くないと思ったが。


「今、なんか失礼なこと考えた?」

「いやいや。そんなことは……。でも、喫茶店とか、勉強に最適じゃないか?」

「人がいると落ち着かないし……」

「そういうことか……」


人それぞれ、あるんだなぁ。


「でも、むしろあまり喫茶店に行かない人だからこそ、斬新な意見が出てくるかもしれないからな。ほら、なんかあるだろ?」

「無いって。強いて言えば、無人にしてほしい」

「寂しすぎるだろ……。世紀末か?」

「私に訊くのが間違いでしょ」


犀川が、ため息をついた。

そして、すぐに勉強に戻ってしまう。


「そんなに勉強して、疲れないか?」

「疲れない。会話してるほうが疲れるよ?」

「そ、そうか……」

「うん。だから、無理して喋りかけないで? ……頼りたかったら、こっちから頼るし」

「……えっ」

「……なんでもない。今の無し」


頼りたかったら、こっちから頼る……?


これはかなり、信頼されてるんじゃないか?


「あの、さいか――」

「どーんっ!」


いきなり、ドアが思いっきり開け放たれた。


「いやぁ~先輩! 帰りの会が長引いちゃって! 柚のクラスの担任、話が長いんですよ!」


そこまで言ったところで。

部室の隅にいる、犀川の存在に、気が付いたらしい。


「あっ。初めまして。あなたが犀川先輩ですか!?」

「うっ、うん」


いきなり近づいてきた笹倉に、犀川が少し引いている。

性格的に……。真逆の存在だしなぁ。


「私、笹倉柚です!」

「犀川直美……です」

「よろしくお願いします!」

「……うん」


犀川が、控えめに頷いた。


それを確認してから、笹倉が、俺に顔を向けた。


「どうした?」

「あの、部室なので……。大きく羽を伸ばしてもいいですか?」

「あ、あぁ……」

「よいしょ~!!!」


そんな掛け声とともに。


天井に届きそうなほど、笹倉の背中から、羽が生えてきた。


「ふぅ~。たまにはこうしてあげると、なんとなく体がスッキリするんです!」

「そういう仕組みなのか……」

「はい! あの、武藤先輩! ジョーカー行きましょう?」

「そうだな」

「犀川先輩も! 良かったらどうですか?」


笹倉が、笑顔で尋ねるが……。


「私は良いよ。疲れてるから」


……笹倉が誘っても、同じだったか。


「バイト、楽しい? 武藤くん」

「え? あぁ、楽しいけど」

「そう。良かったね。二人で楽しんできて?」

「二人じゃないですよ! 明美先輩もいます!」

「ごめんごめん。……三人で、どうぞお楽しみください」


なんだ、その言い方……。

来たいなら、来ればいいのに。


まぁそういう、素直になれないところも、嫌いじゃないけどな。


「明美先輩は、先に店で待ってるらしいです! 行きましょう!」

「よし。じゃあな犀川。仲間に入れてほしかったら、いつでも言えよ?」


犀川は、何も答えず、こちらに目を向けることすらなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る