連絡先

モモ先輩と文月先生が、帰った後。

俺たちは、おしゃれに見える写真を撮影すべく、悪戦苦闘していた。


「ん~……。なんか違いますよねぇ」

「そうだな……。明るすぎるのか?」

「ちょっと、影を作ってみますか」


コーヒーの上に、それっぽく影を落としてみて、撮影。


「……なんか、暗いだけだな」

「おかしいですね……」


なかなかうまくいかない。

世の中の、SNSに写真を上げている女子たちは、俺が思っている以上に、すごいスキルを持っていたんだな。


「二人とも、できた?」


武三さんの手伝いをしていた九条が、こちらにやってきた。


「全然ダメなんです……。ほら」

「……うわっ」


俺たちの撮影した写真を見て、九条が顔をしかめた。


「そ、そんな酷いか?」

「酷すぎて、笑えもしないよこれ……。なんでこうなっちゃった?」

「なんでって……。仕方ないだろ? 見栄えを意識して、写真を撮ることなんてなかったし」

「武藤、友達いないもんね……」

「さ、撮影したのは笹倉だぞ」

「あ~先輩! 人に罪をなすりつけるなんて、ズルいですよ!」

「うわっ。やめろ。羽で叩くな」


フサフサの羽なので、痛くはないが……。

妙なこしょばさがあるので、やめてほしい。


「そういう九条はどうなんだよ。そこまで言うなら、見本をみせてくれ」

「仕方ないなぁ……」


そう言って、九条が俺のスマホを手に取った。


「まず、設定がダメじゃん。画質低すぎ」

「画質……。変更できるんだな」

「そのレベル……?」


呆れた様子の九条。

俺は頭が上がらない。

笹倉も、尊敬のまなざしを、九条に向けている。


「ほら、これをこうして……」


九条が撮影した写真は……。

まさに、今風のおしゃれな出来栄えとなっていた。


「すごいです! さすが女子高生!」

「いや、柚ちゃんも女子高生でしょ」

「九条……。見直したぞ。天才だなお前は」

「そ、そんな褒めないでよ……」


九条が、照れくさそうに頭を掻いた。


「じゃあ、写真はこれを使おう」

「えっと……。それなら、私のスマホに、画像送ってよ」

「そうだな」

「連絡先、登録しとくね」

「おう」


慣れた手つきで、九条が俺のスマホの某アプリに、自分のIDを打ち込んでいった。


「はい。じゃあ、ついでに送っとくよ」

「任せた」

「あっ、私も連絡先交換したいです!」


笹倉が、スマホを取りに、更衣室に向かった。


「……あのさ、九条」

「ん~?」

「さっき、店の方針が決まった時、あんまりパっとしない表情をしてたけど……。何か他に、案があったのか?」

「あ~……。別に? 大したアレじゃないから、気にしなくていいよ?」

「そうか?」


九条が、少し笑った。

……何だろう。何か言いたいことが、あるような気がするんだけどな。


「何かあったらさ。いつでも連絡くれよ。連絡先も交換したし」

「よっぽどないけどね~。武藤は、直美の男だし」

「おい……。そういうからかい方は、よくないぞ?」

「からかってないけど?」

「……」

「お待たせしました~! ……って、二人とも、どうしたんですか? 怖い顔して」

「武藤が口説いてきたから、怒ってただけだよ~」

「おいおい! なんて嘘つくんだお前は!」

「あははっ。じゃあ、私は裏に戻るから、さっきの写真を参考にして、練習してね」


あいつ……。

全く。どうしてあんな、波風が立つようなことを言うんだ。


「先輩! 連絡先交換しましょ!」

「あ、あぁ」

「私、異性の連絡先を入れるの、初めてですよ……。どうです? 先輩、嬉しい?」

「そうだな。みんなに自慢するよ」

「自慢する友達、いないんですよね?」

「お~い」

「いやぁ~! 冗談ですよ先輩! 怒らないで~?」


……完全に、イジリ方を覚えられたな。

このバイト、結構疲れることになりそうだ……。

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