意外な勝利

「あはは! 直美、へたっぴだね!」

「うるさい……」


三人で、クレーンゲーム対決をすることになった。


それぞれ、取れそうだと思った景品の入った台を、一つずつ選び……。

千円以内で、多く獲得できた人の勝ち。


そういうルールだ。

大きい景品の場合は、ボーナスがあってもいい。

そんなことを、九条は言っていたが……。


……少なくとも、そのボーナスは、犀川には適用されることはなさそうだな。


「……なんで? 掴めるのに、必ず落とす」

「そういうもんだよ~? そんなさ、でかいぬいぐるみが、バンバン取れたら、儲からないじゃん」

「そうだけど……。それにしても、腹が立つ」


そう言いながら、犀川は次の五百円を投入した。

五百円で、六回プレイすることができる。


犀川が狙っているのは、熊のぬいぐるみだ。


ちなみに九条は、中くらいの規模の台で、二つぬいぐるみをゲットしている。

俺は……。

……犀川と同じく、一点ものを狙い、見事撃沈。


これは、九条の一人勝ちかなぁ……。


そう思って、ボーっと、犀川のやっている台を、見ていたところ。

持ちあがったぬいぐるみが……。


――そのまま、取り出し口まで運ばれた。


「すごい! 直美やるじゃん!」

「……当然でしょ」


涼しい顔をしているが、口元が緩んでいる。

……嘘だろ? 

俺、負けたのか?


おそらく、人生でクレーンゲームなんて、ほとんどやったことないであろう、犀川に……。


「ふふっ。どう?」


犀川が、得意げな表情で、獲得したぬいぐるみを見せてくる。


ご機嫌に、熊の両手を、上下に揺らしながら……。


「犀川に負けるとは……。一生の不覚だな」

「ちょっと。どういう意味?」

「じゃあ、負けた武藤は、罰ゲームね?」

「は、はぁ? そんな話、聞いてないぞ?」

「良いじゃん。ね? 直美」

「良いと思う」

「くそっ……。卑怯だぞ。自分が勝ったからって」

「私、チョコアイスが食べたい。エスカレータ―のところにさ、アイスの自販機あったでしょ?」

「お前……。結構遠いぞ」


九条が、誤魔化すように、口笛を吹いた。


「武藤くん。私はプリンアイス」

「まだプリンが食べたいのかよ……。ていうか、プリンアイスなんてあるのか?」

「あるよ。きっと」


願望かよ……。


「わかったわかった。買ってきてやるよ」

「やった~。じゃあ直美、次は何で対決しようか」

「えぇ? もう私は……」

「そんなこと言わないでさ。遊ぶの久々じゃん? 楽しくなってきちゃった」

「あ、ちょっと……」


九条が、犀川を引っ張って、行ってしまった。

プリクラでも撮るんですかね~。いいですね~。


俺は一人寂しく、アイスを買いに行った。

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