三人目
本当にあったよ……。プリンアイス。
犀川のプリン愛が、プリンを引き寄せたのかもしれない。
自分の分のアイスを食べながら、俺はゲーセンに戻った。
さて、お二人はどちらに……。
「ちょっと! しつこいって!」
……何やら、九条が怒っている声が聞こえた。
その声の方へ向かうと……。
大学生っぽい男、四人組が、九条と向かい合っていた。
男の方はへらへらしているが、九条の後ろにいる犀川は、困ったような表情をしている。
俺はすぐに、二人の元へ向かった。
「あっ、武藤……」
「ん? あ~なんだ。彼氏いたの?」
「そ、そうだよ」
「え?」
九条が、俺の腕を掴んで……。
まるで、恋人みたいに、組んできた。
「お、おい」
「合わせなさい。少しで良いから」
九条に耳打ちされ、俺は従うことにした。
「いや、すまんすまん……。二人だけっぽかったからさ……。君、彼女をこんなところに放置したら、ダメだろ?」
「すいません……」
「わかればいいさ。はぁ~しくったなぁ」
幸い、話のわかる大学生だったらしく。
その場は、丸く収まった。
「……うわぁ怖かった。本当に」
九条が、俺から離れてすぐに、犀川に抱き着いた。
「ありがとう……明美」
「え? お礼なら、武藤に言いなよ。武藤が来なかったら、ちょっとヤバかったかもよ?」
確かに。
強引に連れていかれることはなかったにしても、あの四人組の内の誰かが、犀川に触れてしまう可能性はあった。
もちろん、そこまでの事情を、九条は知らないだろうけど。
「ありがとう。武藤くん」
「いやいや……。ほら、これ、アイス」
「さんきゅー……」
「……頂くね」
……なんだか、微妙な空気になってるな。
「え~っと……。私、帰るわ」
「え?」
「ほら、プリンさ。保冷剤の時間もあるし。んじゃっ」
九条が、こちらに手を振りながら、帰って行った。
「じゃあ、私たちも解散に」
「ま、まぁまぁ。アイス、食べてる途中だしさ……。とりあえず、そこに座ろう」
「……うん」
何とも言えない空気感のまま。
俺たちは、エスカレーターの脇にある、そこそこの硬さの椅子に腰かけた。
「九条とは、結構仲良かったのか?」
「結構……。っていうのが、どのくらいかわかんないけど。そこそこじゃない。目が遭えば、話す程度だよ」
「そうか……」
「……二年生になってからは、明美、男子とつるむことが増えたから、あんまり話す機会もなくなったけど」
言われてみれば、九条は女子よりも、男子と喋ってるところを見る方が、多いな……。
「逆ハーレム思考なのかもな」
「面白くないよ」
「……何とか、この空気を晴れさせようと、頑張ってるんだぜ?」
「三人目」
「え?」
「なんでもない」
犀川は、食べ終わったアイスの棒を、ゴミ箱に向けて、放り投げた。
棒は……。
遥か右に逸れ、地面とぶつかった。
「……何?」
「ナイスシュートだな」
「バカにしてる?」
「いいや」
今度は俺が、同じように、ゴミ箱へシュート。
見事、綺麗な放物線を描いて、ゴミ箱の中に入って行った。
「……武藤くんはさ、もっと周りを見た方がいいよ?」
「え?」
犀川がそう言ったので、俺は後ろをみた。
……小さな女の子が、こちらを見ている。
「お兄さん。ゴミ、投げちゃダメなんだよ?」
「……そうだよな。ごめんな」
俺は立ち上がり、犀川の外した分も、ゴミ箱に捨てた。
「……こういうことだな」
「違うけどね」
犀川は、笑うこともなく。
その日は、それで解散になった。
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