九条明美

九条が、犀川の隣の席に座った。


「直美、甘い物好きだもんね」

「……うん」


そういえば……。二人は一年生の時、同じクラスだったんだっけ。


『どうだろ、最近は、あんま喋ってないから……。仲良かったのだって、去年同じクラスだった時の話だし』


九条のセリフを、俺は覚えている。

わざわざ……。話しかけてこなくてもいいのに。


「で、お二人はどういう関係? 魔物症候群がどうとかで……。オカルト研究部で、仲良くしてるっていう話は、聞いてるけど」

「別に。彼が、魔物症候群について詳しいから、色々アドバイスを受けてるだけ」

「休日に、こんなところで?」

「もういいだろ九条。犀川はプリンを食べてる途中だぞ」

「……そんな怖い言い方、しなくてもよくない?」

「す……すまん」


九条が、傷ついた表情をしたので、俺は慌てて謝った。

ついうっかり、声色が低くなってしまったが……。

基本的に、九条はそこまで、嫌な奴じゃない。


髪を茶色に染めていて、一見大学生かと思うくらい、妙な垢抜け感があるせいで、その……。

……陽キャの波動を、プンプン感じてしまって、陰キャの俺が、委縮してしまっているだけだ。


性格悪いとか、そういうことは、別に無いけれど。

せっかく、犀川と二人きりだったのになぁ。なんて、意地汚いことを、考えてしまった。


「一人で行動するわけにはいかないから。彼を頼ってるだけ」

「それならさ、私のことも頼ってくれていいんだよ?」

「……明美は、友達たくさんいるから、忙しいでしょ?」

「全然。いつでも連絡してよ。ね?」

「……いいよ。別に。彼の方が、家も近いし。明美は結構遠いから」

「……」


九条が、俺に意味ありげな視線をぶつけてくる。


「どうしたんだよ」

「直美って、結構警戒心強い方だと思うんだけど。もう武藤には、結構色々許してるんだなぁって」

「許してるっていうか……。単に、アドバイスすることがあるから、多少は信頼を置いてくれてるってだけだろ?」

「直美は、簡単に、そういうことする子じゃないから」

「……そうか」


それ、要約すると……。

脈あり、みたいな意味になるけど。


わかって言ってるのか……? 九条は。


「ねぇ。せっかくだしさ、ちょっと遊ばない? ゲーセン行こうよ」

「え? 私はもう……」

「良いでしょ? 武藤」

「えっ?」


九条と遊ぶ……?

正直、そこまで乗り気にはなれなかったが。

もし、ここでゲーセンに行かなかったら、犀川は帰ってしまうかもしれない。


プリンだけ食べて、解散なんて、寂しいからな。


「うん……。行くか」

「よし、決まり。行こう? 直美」

「う、うん……」


こうして、思わぬアシストで、俺たちのデートは継続することになった。


……九条がいるから、デートとは言えないかもしれないけどな。

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