見つかった

「珍しいな……」

「何が?」

「いや、てっきり、テイクアウト方式かと思ったら、店内で食べるタイプだったから」

「お持ち帰り専用の窓口もあるよ?」

「へぇ……。詳しいな」

「何回も来てるし。なんなら毎週来てるから」


ヘビーなリピーターだな……。


「ここなら、女性客が多いから、万が一の異性との接触も、極力防げると思ってね」


犀川の言う通り、店内は女性ばかりだ。

カップルすら、ほとんど見当たらない。


……なんだか、居心地の悪さを感じてしまう。


「それで、珍しいって何?」

「あぁいや……。専門店ってさ、こういうスペースがあるのって、珍しいと思ったんだけど」

「そうかなぁ。結構見るよ? 武藤くん、友達いないから、こういうところに行く機会が少ないだけじゃない」

「犀川だって、友達と来るわけじゃないだろ?」

「うるさい」

「……」


犀川が、店員さんを呼んで、いくつか注文した。

俺はよくわからなかったので、犀川のおすすめに従うことにした。


その表情は、どこか幸せそうに見える。


「……楽しそうだな」

「当たり前でしょ? プリンだもん」

「なんかほんと……。意外だよ。犀川のこういう一面」

「まだそれ言うの……?」

「俺の中の犀川は、せんべい齧ってる印象だった」

「バカにしすぎ。嫌い」


嫌われてしまった。


「冗談だよ。でも……。プリンのイメージはゼロだな」

「じゃあ、武藤くんは何が好きなの?」

「えっと……」

「あっ、今の無し。言われたくないこと、言われそうだったから」

「……え?」

「……なんでもないから」


犀川の顔が、少し赤く見える。

……いや、まさか。


お前が好きだよ。とか、言われるって思ったのか?

そこまでキザじゃないんだけど……。


なんかこっちまで、恥ずかしくなってしまう。


そんなタイミングで、プリンが運ばれてきた。ナイスタイミング。


「じゃあ、その手元にある、ごまプリンを食べてみて」

「これか?」

「そう。美味しいから」

「いただきます……」


一口、食べてみた。


これは……。

思っていたよりも、五倍くらい美味しい。


「ね?」


まるで、自分が作ったかのように、ドヤ顔を見せる犀川。


「かなり美味しいな。これは」

「そうだよね~」


幸せそうな表情で、次々とプリンを食べていく。

あっという間に、自分の頼んだ分を食べ終わった犀川は……。


俺のプリンを、じっと見つめるのだった。


「……欲しいのか?」

「べ、別に?」


そう答えてからも、犀川は横目で、チラチラとプリンを見ている。


「はぁ……。これ、まだ食べてないから、食べていいぞ」

「違うから別に。違う」

「違わないだろ……」

「だいたい、太るし。そんな食べたら」

「はいはいわかった。じゃあ……。俺が頼みすぎて、お腹いっぱいになったから、代わりに食べてくれ。これでいいだろ?」

「……仕方ないなぁ」


満開の笑顔で、プリンを自分の手元に寄せた。

……子供みたいで、可愛いな。


犀川が、ウキウキしながら、プリンを口に運ぼうとした、その時だった。


「あれ? 武藤……?」


おそらく、持ち帰り専用の窓口で、プリンを買ったのだろう。

この店の袋を手に下げた……。


クラスメイトの、陽キャ代表、九条明美くじょうあけみが、こちらに目を向けていた。


これは……。めんどくさいことになったぞ?

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