集合
翌日の、午後三時。
俺は、犀川の家を訪れている。
ゆっくりと、震える手で、インターホンを押した。
「……どなたですか」
「武藤歩夢です」
「待ってて。すぐ行くから」
どなたですかって……。
犀川の家、こないだ入った時に見たけど、相手の顔が見えるタイプの、インターホンだったような気がするが。まぁいいや。
しばらくして……。犀川が登場。
「よ、よう」
「うん……」
「あの、アレだな。……昨日ぶり」
「なんか、挙動不審でキモい」
「緊張してるんだよ……。いきなりあんな手紙寄越すから」
「ごめんごめん。時間がなかったから」
犀川の私服は……。
うん。すごく可愛い。
女の子の服の名前とか、わからないから、具体的に説明できないけど。
とにかく可愛い。
堅物委員長だから、もっと大人っぽい、クールな服装を好むのかと思ったら。
意外や意外。
主に、ピンクを軸とした、色の選び方をしている。
甘いものが好きだったり、ピンクが好きだったり……。
まだまだ俺は、犀川のこと、全然知らないんだな。
「ちょっと……。ジロジロ見ないでよ」
「ジロジロは見てないだろ。ニヤニヤしながら見てたんだよ」
「余計キモい。ほら、早く行こう」
「どこに行くんだ?」
「プリン専門店。駅前のショッピングモールの中にあるの」
「……昨日、あんなに食べたのに?」
「プリンはどれだけ食べてもいいの」
そもそも、プリン専門店なんてあるんだな。
「本当は一人で行きたかったけど……。ね? 無理だから」
「俺を選んでくれただけでも、ありがたいよ。モモ先輩っていう選択肢もあったしな」
「あの人、甘い物嫌いだよ」
「えっ……。初めて知った」
「わかるでしょ……。冷蔵庫見たら」
「見てないからな……」
「そう」
犀川が、得意げな表情を浮かべた。
なんで、マウント取られたみたいになってるんだよ。
「他にプリンがあるかと思って、冷蔵庫開けたのに、入ってなくて残念だった」
「結構犀川って……。悪戯女子なんだな」
「堅物委員長だけど?」
「都合悪い時だけ、そっちを名乗るなよ」
「こんな会話、どうでもいいから。早くプリン食べに行こうよ」
「……」
早足で歩き始めた犀川を追いかける。
「電車は使わないから。徒歩で四十分ね」
「……おう」
「嫌ならいいけど」
「全然嫌じゃない。その分、会話が増えるからな」
「え?」
この距離で、聞き漏らすはずがない。
俺は犀川に目を向けた。
……ヘッドホンをしていた。
いつの間に。
「あぁこれ、ノイズキャンセリングだから。聞こえない」
「……」
どんだけ、俺と会話したくないんだよ……。
結局、四十分間無言のまま、俺たちはプリン専門店を目指すことになった。
好きな人と並んで歩くことができているだけ、幸せだと思うことにしよう。
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