お泊り会 関係の変化

武藤歩夢は変化する

なんだかんだあって、犀川を説得し、学校を辞めるのを阻止することに成功した俺だったが。


……半ば、告白のようなことを、してしまったわけで。


「キモいからやめて」


みたいなこと、言ってたよな。犀川……。

あれって、フラれたことになるのかな。


なんてことを、あれからずっと考えている。


『お兄ちゃん。また変な顔してるよ。なにかあった?』


風呂上り。

ボーっとテレビを見ていたら、嬉波がメモを俺の目の前に置いた。


「変な顔って、どんな顔だ?」


『恋に悩む少年……。みたいな』


……鋭いな。


「まぁ。俺も高校二年生だからな。恋の一つや二つ、してもいいんじゃないか」


『紹介して! どんな人?』


「いや……。例の、魔物症候群になった、クラスメイトだよ」


『チャンスじゃん! お兄ちゃん、その子を手助けしたんでしょ? きっとうまくいくって!』


「一応、好意を持ってます的なアピールはしたんだけどな……。キモいって言われた」


『……ドンマイ!』


嬉波の部屋のドアが、開閉した。

部屋に戻ったのか……。


見捨てられた兄。

一人になったリビングで、俺は考える。


……どうやったら、犀川と付き合うことができるのかな。

少なくとも、今は無理そうだ。


これから関わっていく中で、いかに自分を、かっこよく見せるかだろう。

陰気な武藤歩夢からは、脱却しなければいけない。


まずは……。髪型からだよな。

現在時刻、午後六時半。


今からやってる美容室ってあるのか?

それと、目元だよな。目元。


毎日のように、夜遅くまでゲームをやってるせいで、なんだか目に力が無い。


あとはなんだろう。喋り方?


『俺は最初から、犀川のこと、エッチな目で見てたぞ!』

……なんて、汚い言葉は、絶対使っちゃダメだ。


極めてジェントルに……。

大人っぽい喋り方を、心掛けよう。

でも、大人っぽいってどんな感じだ?


「犀川……。ごきげんよう」


うわ。絶対違うヤツだこれ。


「犀川、君はバラより美しい」


これも違うな。


「犀川に会えて……。人生が輝き始めたんだ」


控え目に言って、気持ち悪い。


ダメだダメだ。


見た目とか、喋り方とか……。

そこを変えてしまったら、もうそれは、武藤歩夢ではないわけで。

もし仮に、犀川の気を引くことができても、すぐにボロが出るだろう。


……でも、やっぱり髪の毛くらいは、整えておくか。


俺は勇気を出して、今からでも行ける美容院を予約した。

さぁ、もうこれで、後戻りはできない。


待ってろよ。犀川直美。

明日の俺は、一味も二味も違うぜ?

もう、キモいとか、言わせないからな……。

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