イメチェン失敗

「単刀直入に言いますが、似合ってないです」

「……マジですか?」


オカルト研究部の部室を訪れたところ。

いきなり、文月先生に、ダメ出しをくらってしまった。


「武藤くんは、どちらかと言えば童顔なので、髪が伸びっぱなしで、少しクルっと巻いてる感じの方が、印象が良かったですよ」

「えぇ……」

「今の髪型は、確かに綺麗に整ってはいますが、もう少し大人っぽいイケメンがするべきものだと思います。まぁ、百人が見たら、三人くらいは、褒めてくれるかもしれませんがね」


三人……。

ちなみに、嬉波はめちゃくちゃ褒めてくれた。


『L○NEの待ち受け画面にしてもいい!?』


なんて、はしゃいでたくらいだし。

いや、身内だからな……。正直、信用できないけど。


「さ、犀川は……。どうだ?」


さっきから、興味なさそうに、参考書を読んでいる犀川に、勇気を出して訊いてみた。


「さぁ。モサっとしてるよりは、良いんじゃない」

「それはつまり、高評価と捉えていいのか?」

「勝手にしてよ」

「よし。じゃあ二人目の高評価ってことにしておこう」

「武藤くん。現実を見た方がいいですよ」


辛辣だなぁ……。


「そうは言ってもですね。髪が伸びてくるまでには、時間がかかるんですから。これを似合ってると思って、過ごすしかないでしょう?」

「そんなことより。犀川さん。ちょっと武藤くんに触ってみてください」

「えっ。いや文月先生? どうして?」

「いいですから」


犀川も、少し困惑している。


なぜなら、犀川に触れることは……。

失神することを、意味するからだ。


それでも、文月先生は、俺と犀川の手を強引に掴み、触れさせようとする。


「ちょっと待ってください。どういうつもりですか?」

「そうですよ! 俺の髪型が似合ってないからって、こんな制裁加えなくてもいいじゃないですか」

「違います……。ほら。犀川さんが、今日無事登校してくれたということは……。多少なりとも、武藤くんを信頼しているっていうことでしょう?」

「……なるほど」


信頼できるパートナーを見つけた時、犀川の症状は、収まるかもしれない。

そういう話だったはずだ。


「……無理ですよ。私、全然こいつのこと、信用してないし」

「お、おい……。そりゃないだろ? 河原で熱く語りあったじゃないか」

「嘘言わないで。文月先生。もうすぐ彼は授業に行かないといけません。もし、失神したら、面倒なことになると思いますけど」

「その時はその時です。いいから試しましょう」


そう言って……。

かなり力技で、俺たちの手を、触れ合わせた。


……あれ。


「……失神しない」

「……」


犀川が、目を背けた。


「犀川。お前……」

「やっほ~!!!」


良い感じのムードが、元気な声と、思いっきり開かれたドアが壁にぶつかる音によって、かき消された。


「モモ先輩……」


オカルト研究部の部長。

百瀬帆慕里ももせほぼり先輩が、元気良く姿を現した。

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