手を繋ぐ=失神

かつての犀川直美と言えば……。


ある日、男子生徒が教室で、エッチな漫画を読んでいたところ。


「没収。こんなエチエチなもの持ち込んで、バカなの?」


なんて、冷たい声で言い放った。


またある日、男子が下ネタで盛り上がっていたところ。


「キモいから、外で会話してくれない?」


これまた冷たいセリフだった。


ついたあだ名は、ドライアイス犀川。

略して、ドス川。


……略した奴のセンスは、賛否両論ありそうだが。


そんなドス川こと犀川は、とにかくエロが嫌い。

堅物で……。真面目で……。


頭も良いし、教師陣の評判こそ良いけど、クラス内では、正直嫌われてる部類に入っていたと思う。


かと言って、気が強いので、虐めを受けている様子はないが。




「待ってくれよ! 犀川!」


意外と足が早くて……。

追いついたのは、一階に着いてからだった。


なんで追いついたのかと言えば、犀川が靴を履き替えていたからだ。


万年帰宅部の体力、貧弱すぎるな。

息を切らしながら、俺は犀川に近づいた。


「……なに?」


振り替えった犀川は……。


――とてつもなく、エロかった。


まず、本来控えめであったはずの胸が、急に巨大化したもんだから、制服のサイズが全く合ってなくて、ぱっつんぱっつん。


そして……。長い黒髪から覗く首筋が、やけにセクシーで……。


油断すると、無言でジロジロと見つめてしまいそうなほど、魅力的だった。


俺は首を振り、煩悩を振り払う。

こういう時は、ちゃんと目を合わせて会話すればいい。


「……えっと」


……おい!


可愛いじゃないか! この野郎!


あれ……。犀川って、こんな可愛かった?


もう誰も、ドス川なんて呼ばないだろ。なんだこの美少女は!


……落ち着け。

落ち着くんだ。武藤歩夢むとうあゆむ


深呼吸して……。


「……っ!?」


鼻から空気を吸った瞬間、体中に、電流が走ったかのような感覚が……。


気持ちいいというか、なんというか……。

なんだこれ。ヤバいぞ。


一体何が起きてるんだ。


「……用がないなら、もう行くから」

「ま、待つんだ犀川!」


俺は鼻を摘まんで、犀川を呼び止めた。


「何で鼻摘まんでるの……」

「気にするな! あのな、俺、お前を助けてやれるかもしれないんだ!」

「……助ける?」

「そうだよ!」


一旦、犀川から離れて、たくさん息を吸い込み、すぐに戻った。


「犀川は多分、魔物症候群なんだ!」

「魔物症候群?」

「とりあえず、オカルト研究部の部室に行こう!」

「え? あ、ちょっと!」


犀川を、オカルト研究室に連れて行こうと、手を握った瞬間。

突然、心臓がドクンと跳ね……。


多幸感のようなものに、包まれた。


そして……。


俺は、意識を手放してしまったのだった。

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