堅物委員長が、ある日突然サキュバスになってしまった。

藤丸新

堅物委員長が、ある日突然サキュバスになってしまった。

犀川直美はサキュバスである。

プロローグ

「今日も犀川、休みなのかな」

「ん~どうだろ。わかんね」

「おい明美あけみ。お前、犀川と仲良かっただろ? なんか知らねぇの?」

「どうだろ、最近は、あんま喋ってないから……。仲良かったのだって、去年同じクラスだった時の話だし」

「うひゃ~。冷たい。女子って怖いよなぁ」


後ろの席の、イケイケ陽キャグループの会話を聞きながら、俺は窓の外を見つめていた。


今話題に挙がっている……。クラス委員長の、犀川直美さいかわすぐみ

彼女は大変真面目で、成績優秀者として、校内でもかなり有名だ。


全国模試でも一位を取ったことがあるとか、ないとか。


誰よりも早く学校に来るし。

誰よりも早く帰るし。


おおよそ、年ごろの女の子と呼べるような、活発な活動はしていない。


クラス委員長は、半ば押し付けられる形で引き受けたそうだ。

ちなみに、男子のクラス委員長は、俺なんだけど……。


犀川が、ほとんご仕事を済ませてしまうから、事務的な会話すら発生しない。

あぁいや。たまにあるわ。やり取り。


「武藤くん。あれ、終わったから」


事後報告。


これを会話と言っていいのかどうか。


そんな真面目で、仕事のできる犀川が……。ここ一週間、学校を休んでいる。

正確に言うと、先週の火曜日から休んでいて、今日が週の初め、月曜日だから、今日を入れると、五日になるのか。


まぁ、今日に関しては、まだ休みって決まったわけじゃないけどな。


犀川が休むと、当然その分の仕事は俺がやることになる。

正直面倒だから、早く復帰してほしい。


そんな風に思いながら、ボーっと窓の外を眺めていたら。


「あれ、犀川じゃね?」


後ろの席の陽キャが、そう呟いた。


「そうだな。犀川だ」


陽キャ二号。


「犀川……?」


陽キャ三号。


「……直美?」


陽キャをまとめる女、九条明美くじょうあけみ


俺は教室の入り口に、目を向けた。


「……えっ」


思わず、声が出た。


俺の知る、犀川直美と言えば。

伸びっぱなしの黒髪が、ちょっとボサっとしていて。

どことなく暗い雰囲気で。

肌は白くて綺麗だけど、不健康なだけかもしれなくて。


でっぱりの極端に少ない、控えめな女子という印象だったけど。


今、俺の目に映る犀川は。


まず、その大きな二つの突起物が、存在を主張している。

そして、ボサボサだったはずの髪には、妙な艶があり……。

ものすごく、大人っぽい。


肌の白さは、間違いなく健康的と言えるほど、透明感のある色合い。


そう、今日の犀川は、端的に言って――。


「なんか、犀川エロくね?」


陽キャ四号。


そうだ。お前の言う通りだな。


クラスの視線を感じた犀川は……。

すぐに教室を出て行ってしまった。


いくら成長期とはいえ、たった一週間で、胸があんなに成長することはない。

俺はすぐに悟った。


犀川は――。魔物症候群だ。

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