第358話 個人指導

翌日、ミサトはユウヤと兄ツトムを連れて来ていた。

ミサトがリョウの家に行くことを知ったツトムが無理矢理ついて来たのだ。


「すげぇ、庭にピッチがあるよ。」

ツトムは家を見て驚いている。


「来たかい?」

俺はやって来た三人を迎え入れる。

「あれ?三人?」

「はい、兄がついてきてしまいまして・・・」

「ツトムと言います!どうしてもリョウさんに会いたくて来てしまいました。」


「まあ、いいか。とりあえずピッチに行こうか。」

俺はみんなをピッチに連れて行く。


「まずユウヤくん、ボランチに転向は抵抗があるんだろ?」

「はい、やっぱりサッカーは点を取るのが楽しいと思ってます。」


「うん、それが答えなら迷う事はないよね。」

「でも、リョウさんに言われて、どうしたらいいか・・・」

ユウヤは悩んでいた。自身は点を取りたいけど、代表になれるならという思いもある。


「俺は自分が楽しいからサッカーをやっているんだ。

だから、君がしたいプレーをしたらいいと思う、もし、俺が君を惑わしてしまったなら謝るよ。」


「・・・リョウさん、もし俺がFWとして頑張ったら代表に入れますか?」

「君より才能のあるFWはいると思う。

もちろん、努力の先にある話になるから絶対とは言わないよ。」

「じゃあ、ボランチなら?」

「俺は君の才能が一番生きるのはボランチだと思って薦めている。

代表なんて小さい事は言わず、才能を伸ばしたら世界に出ることも不可能じゃないと思っているよ。」

「えっ、そこまで買ってくれているんですか!」

「うん、俺が監督なら今でも世代別のレギュラーとして使うね。」


そこまで話すと俺に来客があった。

「リョウさん、きました!」

そこにはユウキとヒカル、そして、タツヒコ、シンジがいた。


「あれ、タツヒコとシンジも来たのか?」

「はい、少しでもいいんで教えてもらえないですか!」

「まあ、丁度いいか、今から他の子も指導するところだから、一緒にやるか?」

「はい!」

「じゃあ、準備して。ヒカルも無理のないぐらいなら動いていいからな。」

「はい。」

四人が着替えにピッチ横の更衣室に向かった。


「あの、さっきの人達は?」

ミサトは気になったのか聞いてくる。

「あの子達はこの前教えた子供達の中で才能があると思った子かな。」

「リョウさんが教えるのですか?」

「一人はそうなるね、後は治療に預かる子が一人と残りの二人は折角来たから多少は教えるよ。」


ユウヤは意を決して頼み込んでくる。ならば

「僕も専属で教えてもらう事は出来ませんか?」

「うーん、俺は色んな事をしてるからね、付きっきりで教える事は出来ないし、チームを持ってる訳でもないから、お薦めしないよ。」

「でも、一人は専属で教えるのですよね。」

「まあ、プロを紹介するとは言ったんだけどね。」

「えっ?今の時点でですか?彼も中学生ですよね。」

「そうだね、でも、彼ほどの才能を見たのは初めてだよ。

多分、俺より上手くなるんじゃないかな?」

「そんなにですか・・・」

「もちろん、怪我なく才能を伸ばしきればだけどね。

さて、みんなも出てきたしボールを蹴ろうか。」

俺は子供達を紹介して、ボールを蹴り始める。


「ユウヤくん、タツヒコと同じボールを蹴るから自分の動きとタツヒコの動きを比べて見て。」

俺は全く同じコースにタツヒコとユウヤ二人にクロスを上げる。

そして、タツヒコはダイビングヘッドでゴールを決めたが、ユウヤは届く事がなかった。


「タツヒコはFWの才能があると思っている、これが君とタツヒコの差だよ。」


ユウヤはタツヒコとの差に悔しそうにする。

「もちろん楽しむのが一番だからゴールを決めたいというならそれでいいと思う。」


「リョウさん、俺にもパスください!」

シンジがボールを求めてくる。

俺は低いグラインダーのボールを出す。

かなり前に出したが、シンジは追い付き、ワンタッチでループシュートを打つ、残念ながらゴールは外してしまったが、

「シンジいい動きだ、よく練習出来てるし、イメージもいい。」

「ありがとうございます。」

シンジは嬉しそうにしている。


「じゃあ、俺とリナがディフェンス、ヒカルはキーパーして貰えるかな?

ユウキがパスを出して、ゴールを決めて見ようか。」

リナもスポーツウェアに着替えて来ていた。

「女の子相手にですか?」


「甘く見たらいけないよ、現状勝てないからな。

俺はユウキの邪魔をする、タツヒコ、シンジ、ユウヤくん、ミサトちゃんの四人がペナルティエリアの外で構えておいて、オフサイドラインには注意しなよ。」


「流石に決めれますよ。」

シンジは軽く言うが、

「出来るかな?まあやってみようか。」


シンジ以外の全員がゴールを決めれると思っていた。しかし・・・


「なんで・・・」

誰もゴールを決めれない。

俺がユウキのパスコースを限定させ、リナが刈る。

それだけだと面白くないので、パスを出させるも、リナがラインを上げオフサイドにかける。

オフサイドにかけずシュートまで打たせても、俺が戻ってクリアしたりした。


「まあ、みんなまだまだって事だけど、


ユウキ、怯えるな、もっと強気でパスを出す事。


タツヒコ、待ち構えるだけじゃゴールは遠いぞ、もっとオフザボールの意識を持つこと。


シンジ、裏を狙い過ぎだ、バレバレだぞ。


ユウヤくん、君は何をしたいんだ?狙いが見えない。その位置でボールが貰えるか、ゴールをどう狙うか、一度考えてみなさい。


ミサトちゃん、ゴメン、君には少し早かったね、ちょっとレベルが高過ぎた。

こいつらプロを目指せるレベルだったのに女の子のミサトちゃんには少し厳しかったと思う。」


各自思う事があるのか黙ってしまった。

「ヒカルには悪かったね、本当はDFして貰いたい所だったけど、無理させかねないから。」

「いえ、みんなの動きが見えて楽しかったです。

でも、リョウさんとリナさん凄いですね。

どうやって意志疎通していたのですか?」

ヒカルは後ろから見てた性か俺とリナの動きの連動に気付いていた。


「お兄ちゃんのやることは妹だからよく解る。」

リナは誇らしそうにいう。

「言葉にするとだな、リナは俺の動き出しや体の向きを見て、何をしようか、察してくれていたんだ。

本来ならFWの才能に溢れているけど、まあ、意志疎通が出来れば、こんな事も出来るということだ。」

ヒカルは感心していた。そして、この経験は今後のヒカルの守備に影響を与える事になった。

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