第357話 指導

「えー本日は宜しくお願いします。」

俺は週末、ミサトの学校を訪れていた。


「マジか、本物のリョウだぞ!」

「ウソだろ?この後本当に指導を受けれるのか?」

子供達は動揺が隠せない。

「ほら、静かに!リョウさんに拍手!」

ヒサモト先生は子供達を整列させる。

「ありがとう、えー皆さんはじめまして、リョウと言います。

今日来たのはミサトちゃんの家族に世話になったお礼にサッカーの指導に来ました、

みんなミサトちゃんに拍手してあげて。」

俺はとりあえず、ミサトを持ち上げる。


「リョウさん!」

ミサトは持上げられて恥ずかしいのかうつむいてしまう。


「さて、遊ぶのもどうかと思うので早速練習しようか、アップは済んでる?」

「「はい!」」

全員がいい返事をする。


「じゃあ、まずは二人に分かれてボールを蹴ってみて。もちろん相手の足元を目掛けてね。」

各自二人組を作りボールを蹴る。


そして、一人ずつ回り、蹴り方、受け方を指導していく。

そして、次はゴール前で攻めと守りに分かれて練習する。

その動きをみて、各自の動きに合わせた今後の練習内容をメモしてあげる。

ついでにポジションがあっていないと感じた人にも合っていると思うポジションを伝える。


ただ、一人輝いている子供がいた。

現在FWで熱心にシュートを見せているユウヤだった。

「ユウヤくんだったかな?」

「はい!」

「君のポジションはボランチがあっていると思うよ。」


「えっ?」

「君は視野が広いし、フィジカルも優れている、空中戦の強さも良いものがあると思う、

そして、ロングでボールを蹴ってもコースに飛ばせる力がある。

もし、君がボランチで才能を伸ばせば、代表入りも出来るんじゃないかな?」


「でも、俺はFWが!」

「うん、俺は無理にとは言わないよ、楽しくやるのが一番だと思うし、ただ、今見た感じで思った事を伝えただけだよ。」

「・・・」

ユウヤは少し不満そうにしている。

俺はFWを目指す用の練習内容をメモする。


「君がFWを目指すなら、こうした方がいいということを纏めたよ。」

ユウヤはメモを受けとる。

そして、次の子供の指導に移ろうとする。


「あの!ボランチを目指すにはどうしたら!」

俺はもうひとつのメモも渡す。

「こっちがボランチ用だね、伸ばす所が違うから、両方はしない方がいい、オーバーワークは怪我もしやすいからね。

よく考えて練習したらいいかな?」


そう伝えると次に移った。

そして、次はミサトだった。

「あの、リョウさん、ユウヤくんに冷たくないですか?」

「うん?」

「だって、彼、どうしたらいいか悩んでいると思うのです。」

「うーん、結局、どうするかは自分だと思うんだ。

俺は最善のつもりで伝えているけど、絶対とは言えないからね。

したくなければしなくていいと思うし。

もし、今日、教えた子が明日から野球を始めても俺は文句は言わないよ。」


「でも・・・」

「それよりミサトちゃんの指導をするよ。」

俺はミサトの指導をするがミサトの集中が足りてなく、上手くいかない。

「ミサトちゃん、集中出来ないなら此処までにするよ。」

ミサトは悔しそうにしているが、動きを見ると実際別の事を考えているのがよくわかる。


「はぁ、明日、暇なら俺の家にユウヤくんと一緒に来なさい。

改めて教えるよ。」

俺は埒があかないからミサトの指導は明日にする事にする。


「じゃあ、此処までにしようか。」

俺は二時間歩度教えて、終わりにする。

子供達はもっとやりたそうだったがオーバーワークになってはいけないと説明して終わらせた。


練習後、子供達は俺にサインを求めて来ていた。

Tシャツや、バッグ、ノートなど色々な物を出して来ていた。


そんな中、ヒサモト先生は・・・

「えーと、先生それは?」

「リョウさんのドイツ代表ユニです。これにサインを貰えませんか?」

俺のユニフォームのレプリカを用意していた。

「俺のも出てるんですね、知りませんでした。」

俺はサインを書きながら、ヒサモト先生と話していた。

「知らなかったんですか?スポーツ用品店では一番人気ですよ。」

「そういえば、最近行ってないなぁ、はい、終わり、

先生ドイツ代表ユニにサインを書いたのは初めてですから、そのユニ現在一枚だけですよ。」

「ななな・・・」

ヒサモト先生は持つ手が震えている。

「まあ、後日増えるかも知れませんが、今は一枚だけですね。」


「せんせい、ズルい!サッカー部に寄付しろー!」

「な、何を言うんだ!これは俺の物だ!」

子供達に奪われそうになりながらヒサモト先生は必死に守っていた。

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