第359話 ツトム

「あの!俺の事も見て貰えませんか!」

俺達の練習を見て耐えかねたのかツトムが練習参加を訴えてきた。


「あーごめんな、この子達は中学生だから、体の出来ているツトムくんと一緒にして怪我したらいけないと思ったんだ。

じゃあ、今から教えるから。ボールを蹴って見ようか。」

俺とパス交換をするが、ツトムに特別な才能はないように感じる。

暫く蹴った後、俺はメモを書く。


「ツトムくん、これが君にあっていると思う練習方法だよ。」

「あの、俺に才能は?」

「・・・高校選手権でそこそこ活躍出来るかな?」

俺はいいにくかったが、ハッキリ言うことにした。

「えっ?」

「今の時点の話だけどね、趣味でやるには充分だと思うよ。」

「でも、この子達は・・・」


「こいつらは別、よくもまあ、こんな才能の奴等が一つの町に集まっていたもんだ。」

俺に誉められ、四人が嬉しそうな顔を浮かべる。

「な、なんなんだよ!ちょっと蹴っただけで何が解るんだよ!」


「うーん、君、利き足の右を数年前に壊しただろ?

それが治らないまま、続けていたから全体的に変になっている。

今更矯正しても多分プロまでは届かない。

もし、無理をしてもプロを目指すなら止めておいた方がいいと思う。

無理をすると歩けなくなるよ。」

「そんな・・・」

ツトムは崩れ落ちた。

指摘の通り、二年前に足を痛めた、医者が止めたが中学生最後の試合があったから無理に出場もした。

痛みも殆ど無いのに、それが影響してるなんて・・・


「あーミサトちゃん、ゴメン、お兄さんに酷いこと言ったかな。」

放心しているツトムを見てミサトに謝った。


「ケガの影響って本当なんですか?」

「うん、残念だけど、だいぶ歪んでしまっている。」

「そんな・・・」

ミサトもショックを受けたようだった。


「リョウさんなら治せないのですか?」

ヒカルがそれとなく聞いてきた。

「あそこまで歪むとね、一年ぐらいかかりきりでやれば、もしかしたらマシになるかも知れないけど、そこまでは流石に手を貸せないよ。」

俺の声を聞いたのか、ツトムとミサトは食いついてきた。


「治る可能性があるんですか!」

「可能性だけだ、それに俺は医者じゃないから治療は出来ない。

腕のいい整体師を探す事をおすすめするよ。」

「でも!さっきヒカルさんを治療するって!」

ミサトはヒカルとの話を聞いていたようだ。


「あー言いにくいけど、一年かかりきりで治療する程の義理はないよ。」

「でも、兄が治るかも知れないのですよね!」

「君には兄かも知れないけど、俺には車に乗せて貰った人の息子さんなだけだよ。

多少の事ならしてあげたいけど、一年かかりきりでやるのはちょっと・・・」

「でも!」


すがるミサトにリナが静止する。

「お兄ちゃんにどれだけ要求するの?貴女にお兄ちゃんの一年の時間の報酬を用意出来るの?」

「えっ?」

「お兄ちゃんの時間が買えるなら買いたい人はたくさんいるの、生半可な額じゃすまない。」

「リナ、あまり強く言っちゃだめだよ。

でも、そういう事だね。

もし、治療を頼むなら両親とも話してみたらいいよ。

大人なら、ドイツ代表でアーティスト、源グループ東海地区長の一年の重さが解ってくれると思うから。」

「そんな・・・」


ミサトも崩れ落ちていた。


「あの!僕も報酬は用意出来ないのですが・・・」

「ヒカルの治療はそこまで時間はかからないんだ、だから無料で引き受けているし、治さないとサッカーも出来ないからね。

友人達と日本代表になる姿を見せて欲しい気持ちもあるしね。

でも、ツトムくんのケガは日常生活に問題ないし、治療には当然リスクもある。

下手に触らない方がいい。」

「そうなんですか。」

ヒカルは納得したようだ、しかし、練習は後味の悪い感じでおわりを迎えた。

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