第355話 スタジアムからの脱出

試合は2対0の快勝、試合後俺達は盛り上がっていた。

試合後選手達がサポーター席の前に挨拶にくる。

俺は何故か最前列で旗を振っていた。

試合中、後半から振らせて貰ったのだが結局最後まで振っていた。


「すいません、借りっぱなしで。」

俺は旗の持ち主松田リクに謝る。

「構いませんよ、娘がサインをいただいたお礼だと思っていただければ。」

良く見ると旗の持ち主の横に試合前に見た、ボーイッシュな女の子がいた。

「君はさっきの。」

「はい、ミサトと言います。」

「ありがとう、お陰で楽しめたよ。」

俺は旗を持ち主に返してお礼を言った。


「お兄ちゃん、楽しそうだったね。」

「リナ、ごめんよ結局、俺が楽しんでいたね。」

「ううん、お兄ちゃんの楽しそうな姿を見るの好きだから。」

俺はリナの頭を撫でる。

「うー、私とリョウくんの二人の時間だったのに・・・」

「ミウもそんな顔しないの、ごめんね、相手してなくて。」

「私もリョウくんの楽しそうな姿を見るが好きだからいいんだけど、リナちゃんが間に入って来てるのが不満かな?」

「コラコラ、そんな事を言わないの。

それより、どうやって帰るかな?」

「・・・うん、絶対混乱になるよね。」

「みんなが帰るまで待つか。」

「そうだね。」

俺達は最後まで待とうと話し合っているところに、ミサトが話しかけてくる。


「リョウさん、私達の車に乗りませんか?」

ミサトの父リクが近くに車を止めているようで、俺達三人を乗せれるとの話だった。


「いや、悪いよ。」

「いえ、是非乗ってください。このままだと、帰らない人も多くなりそうですし。」

サポーターの向こうにいる人達は此方を伺いながら、あまり数が減っていなかった。


「お言葉に甘えさしてもらいます。」

俺はミサトに案内され、車に向かおうとする。


「待ってよ!私まだサイン貰ってないよ!」

マミが慌てたようにやってくる。

ミウはサインをしようとするが、浦和グッズが出てこない。

不思議そうに見ていると、

「試合終わったんだからCDでも良いよね!」

CDを出してきている。


「いや、試合後も浦和グッズだけだから。」

俺が間に入って断る。

「何でよ、試合終わったんだから浦和なんて関係無いでしょ!」

「・・・」

周囲の視線がマミに刺さる。


「浦和なんて、揉め事しか起こさないチームのグッズなんて持って無いのよ。」

周囲の敵意がマミに刺さる。


「そもそも、シュンは浦和の為に週末デートしてくれないし。いつも遠征ばかりでお金がないって言って何も買ってくれないし、普通、彼女を優先するでしょ!」

周囲の男は目をそらす。

彼女達の視線が男に刺さる。


「気持ちはわかるけど、浦和グッズ限定にしてサインしてるから・・・ごめんね。」

ミウは少し同情的だった。


「何でよ!」

だがマミは納得しない。


「やめろ!すいませんリョウさん、コイツには俺が言って聞かせますから。」

「ちょっと、離してよ!シュンまだ貰って無いのよ!」

シュンに連れられ、マミは離れていった。


「リクさん、何か少し痛いものがありますね。」

「私もたまには家族サービスを考えておきます。」

男二人、マミの言葉に思うものはあった。


その後サポーターに囲まれながらもリクに車を回してもらい、なんとかスタジアムを出る。

「すいません、此処までしていただいて。」

「いえ、問題無いです。それにリョウさんを送ったなんて自慢出来ますよ。」

「俺ぐらいでそんな・・・そうだ、今度の休み、ミサトちゃん暇かな?」

「はい、部活があるぐらいですが?」


「なら、御礼に俺が指導してもいいかな?

一応ドイツ代表だし、御礼になると思うのだけど?」


「ええーーー!!」

「ミサト、うるさいよ!」

リクは娘をたしなめる。


「だ、だって!リョウさんの指導だよ!普通、受けられないからね。」

「この前、其処らの学生も教えたから、コツは掴んだと思うんだ。」

「そんな心配してませんよ!えっ、でも、良いのかな?チームメイトに怒られないかな?かな?」

「それならチームメイトも教えるよ。」

「いいんですか!」

「もちろん、これだけお世話になったからね。」

「ありがとうございます!」

ミサトのテンションは高いまま、俺達は家に送って貰った。


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