第354話 観戦前に

「リョウさん、こっちに!」

リーダーさんが騒ぎを聞いて、やって来てくれた。

周囲からリーダーさんを非難する声が聞こえる。

「うるせえ!!リョウさん達は仲間だろ!迷惑かけてんじゃねぇ!」

リーダーさんのグループが俺の周りを固める。

その声に半数程の人の動きが止まる。


「今のうちに。」

俺達はリーダーさんに囲まれたまま、スタジアムに入っていった。


「ありがとうございます。助かりました。」

「いえいえ、こんな事でスタジアムに来るのが嫌になられても困りますから。」

俺達は席に座り周囲の人達と話している。

この周りの人達は以前からあった人達で固められているため、改めて騒がれる事は少なかった。

まあ、その向こうでは此方に来ようとしている人達がいるのだが。


そんな中、リーダーさんの彼女、マミがやって来た。

「ちょっと、シュン、本当にミウ様がいるじゃない。」

「おい、マミ、失礼な事をするなよ。すいません、こいつは彼女のマミと言います。」

「この前言ってた彼女さんですか?リーダーさんにはいつもお世話になっています。」

ミウは頭を下げる。

「ちょ、ちょっと、シュン、これ現実なの?ミウ様が私に頭を下げてくれたよ。」

「落ち着けって、いくらアイドルって言ってもミウさんも普通の人だからな、それより、変に特別扱いするなよ。」

「何をいってるの!ミウ様が普通な訳無いでしょ!」

「まあまあ、二人とも喧嘩は止めてください。」

俺は言い争いになっている二人を止める。

「RYOも一緒なの?えっ!何此処?天国なの?」

「サポーター席だよ、いい加減落ち着けよ。すいません、リョウさん。」

リーダーは頭を下げる。


「いえいえ、まあ、興奮するのもわからなくないですから。」

「あ、あの、お二人のサインをCDに書いて貰えませんか?」

マミはバッグからCDを取り出しサインを求める。

「ごめんよ、此処でのサインは浦和グッズだけにしているんだ。何でもしてたらきりがないし。」

「じゃあ、じゃあ!」

マミはバッグを探すが自身のグッズは持っていないようだった。


「ちょっと、シュン何かちょうだい!」

「だからユニフォームぐらい買えって言ったんだよ。」

「仕方ないじゃない、本当に来ると思ってなかったんだし!」

二人はまた言い争いを始める。


「あのリョウさん、私のユニフォームにサインを貰えませんか?」

リーダーの言い争いを置いて、一人のボーイッシュな中学生ぐらいの女の子が俺にサインを求めてくる。

「俺でいいの?ミウはそこにいるよ。」

「リョウさんがいいんです。イングランド戦を見てからファンになったんです。」

「ありがとう。成り行きで出ただけだけど、見てくれている人もいるんだね。」

俺はその子にサインをする。

「あの、ありがとうございます。」

俺はふと見た足の筋肉の付きかたをみて質問する。


「君もサッカーしてるの?」

「はい、男子に混ざってですが、やっています!」

「女の子がサッカーやる場所が少なくて大変だと思うけど頑張って。」

俺は手を差し出し握手をする。

「ありがとうございます!この手は一生洗いません!!」

「いやいや、ちゃんと洗ってよ!」


女の子に話しかけていると周囲の人達も俺を見ている。

「あれ?皆さんどうしたの?」

「なあ、リョウさん、リョウさんにサインを求めてもいいのかい?」

「まあ、観戦の邪魔にならないぐらいならいいですよ。」


「なら、私にも貰えませんか!」

「いや!俺もだ!」

周囲の人達が一気にサインを求めてくる。


「あれ?何か大変な事に・・・」

俺は冷や汗をかきながら、サインに応じていく。

「あらあら、リョウくんもサインの大変さがわかった?」

ミウがイタズラな目をしている。

「ミウ、助けて。結構大変なの!」

「私も大変なんだよ。リョウくんも同じだね。」

ミウはにこやかに笑う。

サインぜめは選手が出てくるまで続くのだった。

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