第342話 兄貴に連れられて視察

その日は兄貴が上京前に俺の所に寄っていた。

「なぁ、リョウ、お前働いているのか?」

「・・・働いているはず!」

「お前の勤務を見さしてもらってもいいか?」

「・・・どの仕事?」

「源グループでの仕事。」

「・・・兄貴、俺、何の仕事するの?」

「俺に聞くな!」

俺は兄貴を伴って取りあえず、名古屋支社に行ってみる。


「若、今日はどのような要件にございましょうか?」

俺がロビーに入った途端、社員全員が跪き、代表としてその場で一番役職の高かった村井課長が聞いてきた。

「えーと、村井さん。俺のやる仕事ある?」

「若は存在していただく事が仕事にございます。」

「そうじゃなくて、何かしたいのだけど。」

「それならば、視察をなさってはどうでしょう?皆喜ぶと思いますが。」

「そうだね、そうするよ。兄貴行こ。」

兄貴は俺に着いてくる。

「リョウどこに向かうんだ?」

「まずは一番上から行こう。」

「おい、一番上って、支社長室じゃないのか?」

「そうかな?まあ行ってみればわかるよ。」

俺は兄貴を連れて最上階に。

「若!お越しくださるなら連絡してくれれば下でお出迎え致しましたのに!」

一番立派な扉を開けると名古屋支社長の織田さんがいた。

「あれ、ごめん来客中だった?」

其処にはソファーに腰をかける見かけない人がいた。

「若以上の客などおりませぬ。気になさらぬように。」

「それで其方の方は?」

「わ、若様、お初に御目にかかります。今川サネウジと申します。」

「今川さんですか、今日はどうしました?」

「源家に支援をお願いに参ったしだいです。」

「何の支援でしょう?」

「スポーツ振興、とりわけサッカーのスポンサーになっていただきたく。」

「ふむ、俺もサッカー好きだよ。織田さんどうするの?」

「さて、どうするか迷ってはいたのですが・・・」

「それなら、支援出来ないかな?特に下の世代、子供達がサッカーに触れやすくするような支援とか。」

「若が望むなら、支援致しましょう。」

織田さんはすぐに了承してくれる。

「いいのですか!」

今川さんは俺を見ながら喜びの声を上げる。

「競技人口は増えてもらいたいしね。」

「ありがとうございます!」

「額については話し合ってね。」

「ハッ!」

俺は支社長室を後にした。

部屋を出た後、兄貴は怯えながら聞いてきた。

「リョウいいのか?あんなに簡単に決めて。」

「いいんじゃないかな?織田さんの了承も得たし。それより次に行こう!」

俺は何となく楽しくなり、次から次に部屋を訪れた。

入った部屋の人は皆、挨拶をしてくれ歓迎してくれた。


「リョウ!お前これどういう状況なんだ?」「えっ?」

「お前歓迎されてるけど、働いてないよな?」

「・・・言われてみると。」


「若様のお兄様ですよね?」

部屋にいた女性が声をかけてきた。

「はい、えーとあなたは?」

「井駒ヨシノと申します。」

「井駒さんですね、それで何か?」

「はい、お兄様は若様が働いてないとおっしゃいましたがそれは違いますよ。」

「しかし、コイツは何もしてませんよ?」

「いえ、若様は我々を束ねておられるのです、若様がいるだけで源グループのほとんどが争うことなく纏まっているのですよ。その為、若様が来られてから売上が右肩上がりなのです。」

「えっ?それはどういう事ですか?」

「元々、源グループは各家ごとに纏まっていたのですが、その為、中央の命令が無いところの争いは酷かったのです。

しかし、若様が全国の武闘派を纏めた所、家同士の争いがなくなり、協調が生まれた事で売上が伸び続けているのです。」

「コイツがですが?コイツ自身あまり協調性なんて無いですよ。」

「お兄様から見るとそう見えるのかも知れませんね。しかし、若様は私達の事を思い、曲まで作っていただきました。今日、こうして御目にかかれただけでも私は光栄に思います。」

「どうだ!兄貴わかったか!」

俺は取りあえず胸を張る。

「何でお前がイバる。お前もわかってなかっただろ?」

「そうとも言うが・・・井駒さん、兄貴に説明ありがとう。」

「勿体無き御言葉・・・」

井駒は涙を浮かべていた。

「あわわ、泣かないで!」

俺は何か無いかとポケットを探すと来る途中に買った飴が見つかった。

「これでも、食べて泣き止んでよ。」

「これは・・・ありがたき幸せ。」

井駒は両手で恭しく受け取り、感謝の言葉を述べる。

「それじゃ俺達は行くから、仕事頑張って!」

俺は兄貴を連れて、名古屋支社を後にした。

「結局、お前は働いてないんだな。」

「うー売上が上がってるならヨシにしない?」

「あれだけ感謝されてるならな・・・他の支社も視察に行けよ。」

「あまり行くと仕事が止まりそうだけど、なるべく顔を出すようにするよ。」

「そうしとけ。」

俺と兄貴は俺が泊まっている宿に帰った。


リョウが渡した飴は・・・

「井駒くん、それは我々の部署が手に入れたと言っても過言じゃないだろ?さぁ、神棚に供えよう。」

「堀尾課長、これは私が下賜されたんです。我が家の家宝に致します!」

「いやいや、若様がくださったんだよ。独り占めは良くないな、さあ、渡しなさい。」

「いーやーでーすー!」

ちょっとした騒動になっていた・・・

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